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第一章
74保険
しおりを挟む酒場で酔いつぶれる二人を見ながらフェリス侯爵夫人はウィスキーを追加した。
「相変わらず強いな」
「当然ですわ」
国一番酒に強い女性と言われていた。
戦場に身を置いていた時も負けなしの飲みっぷりである。
「しかしこの二人に上手く立ち回ってもらってよかったですわ」
「そうだな。会計士としても優れていたからな」
今回双方に納得させ裁判をさせないように持っていくのは理由があった。
裁判をすれば当人以外にも迷惑がかかる人間が出てくる。
そして貴族の不祥事は新聞記者にとってはごちそうだ。
新聞で面白おかしく書かれては困るのだ。
噂が流れてしまうのだが。
「あの二人がすべてを失う前に土地を奪う必要があります」
「ああ、先代から譲り受けた良い物件だ。あの二人にはもったない」
二人は結託して、未だに貴族である二人からできるだけ価値のある土地を奪いたかった。
邸などは見た目こそは豪華であるが、成金のような建物だ。
「二週間後には邸は崩壊しますでしょうし?」
「ああ、だからこそ土地だけでもな?」
「後で思い知るでしょうね…隣国と縁談が決まっていると勝手思い込んだ後どうなるか」
「想像するまでもない」
後かから婚約はなかったので土地の権利を返せと言っても無駄だ。
依頼料を支払うお金があるなら別であるが、あるはずもなく、王都内の商会から借金はできないだろう。
「先手を取り、その土地は私が買い取った後に国に返上する手はずになっています」
「うむ、実に良い計画だ」
「国の物となれば手も足も出せませんわ…フフッ」
身内には寛大であるフェリス侯爵夫人であるが一度敵と判断したら死ぬまで、地獄の果てまで追いかけて来る恐ろしい女性だ。
今でも彼女に手を出そうとするのは過去を知らないからである。
「こちらも問題ない。今回の所業を息子に伝えてある」
「まぁ、それは驚かれたでしょうね?」
「軟弱な息子よ。即座に気絶して高熱を出したようじゃ」
普通は失神してもおかしくない案件だ。
鋼の精神を持つ二人からすれば弱いとしか思わないのだが。
「後は…」
「馬鹿を徹底的に叩き潰す必要がありますわ」
グラスを傾けながら二人共再び乾杯をした。
その翌日だった。
モリアルが帰国したのは。
「なんじゃと!モリ―が帰国した?」
「はい、港で目撃者が」
タイミングとしてはすべてが終わる前だったので良いとは思えない時期だった。
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