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第一章

63加護の条件

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「実に愚かだ」


王妃を窘めながらも国王は呆れていた。

「しかしグレーテルよ。そなたの元婚約者は何所まで馬鹿なのだ」

「はい?」

「自ら宝を、黄金を海に投げ捨てるなど」


どういうことか今一つ理解できていないグレーテル。
モリアルも同様に首をかしげていたのだが、王妃はため息をつく。


「そなた達、自覚がないのか。加護持ちであるというのに…しかも最高レベルの加護を持っているのというのに」

「ある意味恐ろしいな」

「申し訳ありません…よく意味が」


モリアルは遠慮がちに尋ねると、王妃がもう自棄になって言い放つ。


「モリアル殿、そなたは先代国王が名付け親になった理由は知っておるか」

「祖父と交流があった事は…」

「なるほど、そなたの先祖は根っからの無欲で人が好過ぎたのか」


王妃は思った。
どうしてくれようかと。

ありえない程欲がない。
今までよく無事だったと奇跡だと思ったが、先代クロレンス家の当主が上手く立ち回ったこと。
そして下手に権力に執着せず、静かに暮らしていたことは聡明な判断だったとも考えられる。


「そなたの一族は何代に渡り国を外から守って来たのじゃ」

「はい?」

「そなたの父も当時、王太子殿下だった先代国王に援助をした。金以上のものでな!」

「うむ、調べたが…クロレンス家は国の為、王家の為に全財産を捨てるような真似をして来た。しかも当時は先代国王の正体を知らなかったのだが…」


「精霊や神々は汚れた心を嫌う。逆に他者の為に尽くす人間を好み手助けする」

「それは…」

「血の巡りの悪い男じゃな!そなた達一族は何代も王家を国を!人を守った…それ故に豊穣の加護を得ているのだ!言い方を変えればそなた達は神のいとし子ということになるのじゃ!」


「「え!」」

思わずグレーテルとモリアルは悲鳴に近い声を上げた。


その表情はまさしく親子だった。


「まったく何所まで恐ろしい親子じゃ」

「アスラン。お前は運が良い…神のいとし子は国の宝じゃ」

「陛下…私は」

「解っておる。グレーテルを神のいとし子として接したくないのであろう」


アスランは神のいとし子だから必要だったんじゃない。


「私は神のいとし子などいりません。グレーテルだから必要なのです」


もはやこれは殺し文句だった。
女としてこれ以上の言葉はないだろう。

「アスラン、そなた堅物だと思っていたが」

「いえ…その」

自分で言って後から恥ずかしくなり真っ赤になる。
年相応のアスランを見て安堵する国王はモリアルに視線を戻した。



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