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第一章
61国の事情
しおりを挟むグレーテルの祖国でもあるカステア王国ではちょっとした問題を抱えていた。
先代国王はとても優秀であったが現国王は少し頼りないのだ。
悪い王ではないのだが、優柔不断で妻の王妃陛下に頭が上がらず、しかも貴族派が圧力をかけている状況だった。
側近は下級貴族出身が多く、大臣も成り上がり故に、王弟殿下の母が貴族派出身なのだ。
王妃は王族派であるが実家が中立よりなので政治も中々難しい状況下にあるのだ。
ただこういった事情はどの国も共通している。
先代国王も最初から賢王と呼ばれていたわけではなくあらゆる困難を乗り越えたのだが。
「今の国王はダメじゃ。覚悟が足りん」
「貴族派に丸め込まれるのも時間の問題かもしれん…まぁ、最悪の事態は免れたがな」
「え?」
国の状態が思わしくないのに何故と思うグレーテルに不敵にお微笑む王妃。
「最悪になる前に先王が戻って来たそうじゃ」
「戻って来た?」
「最初は、噂を聞きつけてと思ったんだがな」
モリアルが冷や汗を流しながら視線を逸らせる。
「どういうことですか、お父様」
「ようするにグレーテルの噂を聞き、しかも貴族派が陰で暗躍していたということじゃ」
「はい?」
貴族派が暗躍していたって何?
私の婚約破棄と何か関係があるというの?
「そもそも子爵令嬢ならば伯爵以上の者と婚約してもおかしくない。モリアル殿。そなたほどの聡明な目をお持ちならこの縁談は望む所ではなかったはず」
「はっ…はい」
「そうなのですか、お父様」
「貴族派に押し切られてしまった。王族派と貴族派の不仲を良くするためだと言われたんだ」
知らなかった事実に驚きを隠せない。
そもそもカーサを婿に入れることを望んでいたとばかり思っていたのだ。
「果物園じゃな」
「おそらくは葡萄園でしょうな」
国一番のワインを出荷しているクロレンス領地。
葡萄の製法は極秘になっているが、婿となればその作り方も知ることができるし、それだけではない。
葡萄園を奪うことができる。
「馬鹿な考えよ。男爵家は財産が欲しい。貴族派は領地が欲しい」
「そこまで欲しがるほどの領地でしょうか」
確かに果物の出荷率は断トツであるが、そこまで欲しがるのだろうか。
疑問を抱かずにいられない。
「現在東帝国ではクロレンス産のワインが高値で売買されておる。対する他のワインとは月と鼈じゃ」
「え!」
「それだけ質が良い。最高の葡萄を作るのは時間がかかる…だからじゃ」
ようするに自分達は楽して葡萄園を手に入れ高価なワインで金もうけをしたいということだった。
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