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第一章
58呼び出し
しおりを挟むその夜、グレーテルとアスランは秘密裏に月虹宮に呼ばれた。
現在は信頼できる側近に侍女の数名しかない。
しかも用心深く、盗聴の対策も行われている。
「夜分遅く申し訳ないな」
「楽にせよ」
二人を気遣い両陛下にグレーテルはどうしていいか解らない。
「アスラン、そなたは随分と馬鹿だったようじゃな」
「王妃陛下…」
「例の手紙を見せたのは、確認とグレーテルの不安を取り除くようにとのこと…だが聞けばどうじゃ」
「ジュノ、止めぬか」
「いいえ、なりませぬ。陛下はこの馬鹿に甘すぎるのです」
隣で妻を止めようとする国王だが基本妻に頭が上がらない。
有事でも発言権を与え、時として意見を尊重しているので今回も同様だ。
「昔から甘かったではありませんか」
「そう申すが…」
「アスラン、そなたは妻一人満足に守れぬのか…売れ残ったそなたを引き受けてくれた妻を安心させてやることもできぬとは。これだから賞味期限の切れた男は」
「王妃陛下、その言葉はあんまりではありませぬか」
「ハッ、国内で婚約者を見つけられなかったから妥協して隣国のあの馬鹿娘を選ばざる得なくなったのじゃ」
「ジュノ…もう止めてやれ」
新事実を聞かされたグレーテルは言葉が見つからなかった。
まさかそんな理由だったなんて。
「隣国は陛下を侮辱しているのではありませんか?」
「いや、それはないだろう…王族ならまだしも血縁関係もない貴族の娘の裏事情までは解らぬだろう」
「だから甘いというのです」
国を超えた婚約は慎重にすべきなのだが、アスランの身分では貴族の令嬢をあてがっただけでも隣国からすれば大盤振る舞いだ。
だからなのだろう。
家庭環境まで詳しく調べていないのは。
もしアスランが伯爵以上の地位を持っていたらもっと調査を調べただろう。
隣国からすれば王家に仕える侍従の一人にすぎないのだから。
「もう少しあちらの王にアスランの事をしっかり話すべきだったか」
「何所までの馬鹿な王。先王が退位した所為で国は栄えるどころか衰退するばかりじゃ。今では不作が続いているとか」
「え…」
隣国の情報をほとんど知らないグレーテルは耳を疑った。
情報を入手するすべもないので仕方ないのだが、元祖国が危険な状態になるなんて初耳だった。
「王妃陛下、発言をお許しいただけますか?」
「良い、申してみよ」
胸を押さえながらグレーテルはようやく息ができた。
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