61 / 156
第一章
50謁見
しおりを挟むその日、アスランは国王に呼ばれた。
「お呼びでございますしょうか陛下」
「楽にせよ」
「ハッ」
傍にいる側近は元老院と呼ばれる者達だ。
身分は貴族ではなく元平民だったり商人だったり聖職者だったりと身分が低い者達だった。
国王の意向により絶対身分制度ではない。
実力があれば出世できるのだ。
現に元百姓でありながら現在は侯爵の地位を得ている側近もいるのだから。
「最近お前は侍女を傍においているそうだな」
「陛下…」
「良い、好いた娘か」
「はっ…はい」
幼少期に才能を見出されて以降、恩恵得て来たアスランは緊張した表情でありながらもはっきりと告げた。
「その娘を伴侶にと考えております」
「ほぉ?堅物であるお前がそこまでいうとは」
「私事でお恥ずかしながら」
才はあるが真面目過ぎるのが難点で融通が利かない。
忠誠心は誰よりもあるのに出世欲がまるでない。
国王はアスランをもっと出世させたくてそれなりの地位にいる貴族の令嬢との見合いを考えたこともあったが、先方が何かにつけてアスランの出自を侮辱したり、酷い時は見合いをすっぽかしされたこともあったのだ。
お気に入りの側近であるアスランを悪しざまに扱われてしまい考えを改めた国王だったが、既に心に決めた女性がいたとなれば話は別だ。
「その娘はどのような身分の者だ」
「隣国の元貴族令嬢です」
「元?」
「はい祖先は元百姓で戦時中の功績により爵位を得たと聞いております。ですが婚約者に搾取され理不尽な理由で王都から追いやられたと…自立心の強い娘です」
「なんだと!」
「国を出て、一人で生きていく覚悟をしたそうなのですが…その」
「もう良い。これ以上は言わずとも」
国王は優秀であるが、冷酷な人間ではない。
良い政治をするべく日々頭を抱えながらも国を、民を守るべく奔走していたのだから。
「しかし、貴族令嬢が国を出てとは…」
「随分とたくましい娘ですな」
側近の二人は関心をしていた。
貴族令嬢というくくりにするには随分と自立していると思った。
「早くに母を亡くし苦労してきているようで…国を出たのも奉公先の主や父親に迷惑をかけないためかと」
「ほぉ?骨のある娘のようだな…」
アスランはここで反対をされまいか、気が気でなかった。
「陛下、どうかお許しください」
「何だ?私は咎めようとして呼んだのではない。お前を骨抜きにする娘に興味を持っただけだ。一度ここへ連れてまいれ」
「えっ…」
嫌な予感がした。
にやにやと笑う国王にまた悪い癖が出たと思った。
215
お気に入りに追加
4,092
あなたにおすすめの小説

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

ここはあなたの家ではありません
風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」
婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。
わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。
実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。
そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり――
そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね?
※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

婚約者を追いかけるのはやめました
カレイ
恋愛
公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。
しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。
でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる