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第一章
48母と息子
しおりを挟むルクシアを送り出し、グレーテルは翡翠宮の庭で祈った。
「神様、どうか不器用な二人をお救いください」
前世でも周りの勝手な憶測により引き裂かれた愛があった。
片方は不器用すぎる優しい妻と子だった。
「お二人はただ不器用ですれ違っただけなのです」
心の温かい人だと知っていた。
身分が高くても決して差別をしない優しい鬼姫。
「あの方は鬼じゃない」
美し過ぎる外見と男顔負けの武術で鬼のようだと言われていた。
「巴御前だって女性だわ。あの方は夫に寄り添い最後まで愛を貫いただけ」
前世で蔑まれていた。
妻として役目を果たせず、力もなく権力も後ろ盾もない。
その癖夫は立派で周りからの評価が高い為に己の環境は過酷だった。
そんな中に叱咤激励をされたのだ。
『愚かな、自分から逃げ出す気か』
『私は…』
『身を引くなど自己満足よ。そなたは今逃げようとしているであろう。敵前逃亡はこの家にいらぬ。逃げたいなら二度との妾の前に現れるでないわ』
身を引くことを良しとしない。
自分のしていることは逃げに過ぎないと責められた。
『武将の妻としての覚悟を持て。子を作るだけが役目ではない。戦にでるが妻の役目か…今一度考えよ』
敵国から継いできたからこそ解る事。
苦難の道を耐えて来たからこそ強くならざるを得なかった。
「私はあの日生まれ変わりました」
弱かった自分にさよならをした。
強くなれなくてもそうなろうと努力した。
その思いをくみ取ってくれたのは誰よりも孤独で愛情深いあの人だった。
「役目故に、立場故にすれ違っているんです。二人の間に花を咲かせてください」
親子なのにすれ違うのは悲しい。
愛情を持っているのに、すれ違いで互いに憎み合うのは悲しい。
ならばきっかけさえあれば良い。
「私はもう母に会えません。でも愛情を感じることはあります」
天にいる母を思わない日はない。
母を深く愛している父を思うと、ルクシアがあまりにも不憫に思えて仕方ない。
夢の中で母を恋しがっているルクシアは無意識に母を求めている。
「守役は懐刀になれても母親の代わりになれません」
だからこそお節介をした。
この国に眠る最高位の女神は慈悲と抱擁の女神だった。
女性の愛情を象徴にしているなら。
きっと大丈夫な気がした。
「グレーテル!」
「ルクシア様?」
祈りを捧げてしばらくして、慌てて駆け寄るルクシアの表情は涙の跡があった。
「母上が俺のこと好きだって…」
「それはようございました」
「ちゃんといったんだ。母上に」
すれ違う親子の絆はちゃんと残っていた。
グレーテルのお節介により再び結びなおされたのだった。
しかしその絆の裏で。
「余計な真似を…邪魔な女だ」
その絆を疎ましく思う人物がいたのだった。
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