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第一章
43氷の女帝
しおりを挟む氷の宮殿。
そう呼ばれたのは何時だったか。
この宮殿は月虹宮と呼ばれているが、氷の結界で守られていた。
普通に入るのは不可能に近いのだが、入れるのは宮の主に認められた者だけだった。
「王妃陛下」
「なんじゃ」
「随分楽しそうでございますね」
「ああ…予想外の事は愉快じゃ」
傍付きの侍女は主の楽しそうな表情を見て笑みを浮かべる。
「王家の内乱の兆し、跡目争いをさせようとする馬鹿が多くて滅入っていたからのぉ」
「そうれは…」
「本来なら皆一丸になって王家を支えるべきだというのに」
女性でありながら戦場に出て民を守るべく戦う女王としても民から人気を集めるジュノ。
アクアシア王国を陰から守るジュノは聡明な女性だった。
表向きは恐ろしい王妃と言われているが身近な者は知っていた。
ジュノは王妃として相応しい器を持っていたことを。
誰よりも厳しく誰よりも優しい事を。
だがそんなことを理解しない者が多い。
知ろうとする努力すらせずに憶測で物事を考え噂に振り回される者が多い。
ならばその噂を利用してやろうと考えた。
「不思議な方でしたね」
「ああ、グレーテルか」
「ジュノ様を見ても怯えられなかったのもですが」
初対面でジュノに合う者は魔力で失神する者も少なくない。
威圧感が半端ないのだが、グレーテルは物怖じしなかったのだから。
「あれは私に初めて会った時からじゃ」
この世界でではない前世で初めて顔合わせをした時からだ。
当時から鬼姫と恐れを抱かれていた。
真実を見ようとしない者達は陰で悪女だと決めつけたのだから。
「あれは良い目を持っている」
「はい、私もそう思います」
決して抜きんでた才能はないかもしれない。
傾国の美女と言われ程の美貌も、財産も地位もない。
それでも宝を持っている。
(そうじゃ、鬼を人にした慧眼を持つあの娘)
前世で幾度なく苦難が降りかかり人この心を失くしかけ鬼を人に戻した。
決して強くないが知恵を絞り、大事な物を奪われないように守って来た。
「本当に強い者は力だけではない。覚悟あがるか」
「ジュノ様…」
「己が境地に立たたされても大切なものを守る覚悟を持てるか…その強さがなくては生きていけぬ」
君主とは孤独な立場だった。
そしてその妻であるジュノも孤独な人間だった。
だからこそ誰よりも強くなくてはならない。
裏切り裏切られるのが当たり前になっているからこそ、強くそう思うのだった。
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