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第一章
42誑しの才
しおりを挟む当の本人はケロッとした表情だった。
「どうなさいました?」
「どうじゃない!お前は何を…」
「王妃陛下にお茶会に呼ばれまして、その後お魚を沢山いただきました」
「お前は!」
いつの間にか厨房の料理人が大きな鍋を用意して鍋パーティーをしていた。
「こんな上等な魚にお酒をくださるなんて王妃陛下は太っ腹ですね」
「…会ったのか」
「はい」
「土産も貰ったのか」
「はい」
アスランは眩暈を感じた。
この国で最も恐ろしい女性と言われる王妃は見た目の美しさは冷酷な命令を下すからではない。
彼女自身が姫将軍と呼ばれた経歴があるからだ。
十数年前は他国と戦争をしていた頃、国を攻められた際に敵将を打ち取ったのだから。
国母にして優れた武人でもある。
そんな王妃に恐れを抱き、視線を合わせただけで気を失うことは少なくなかった。
その相手にお茶会に呼ばれ普通にお茶とお菓子をもらい、お土産までもらって帰ってくる図太さを持つ者はこれまでいなかった。
「グレーテル、本当に大丈夫だったの?」
「はい、ルクシア様の母君はお優しい方でしたよ」
「えっ…」
幼いルクシアは信じられなかった。
けれどグレーテルがわざわざこんな嘘をつく理由はない。
「それにしても祖国で困っていた私に手を差し伸べてくださったお優しい奥様が、この国の王妃陛下とは知りませんでした」
「は?」
「あら?言いませんでしたか?」
「聞いてないぞ」
ケロッとしているグレーテルに色々言いたいことは沢山あったがまずは。
「とにかく説教だ」
「え?」
「その魚から手を離し、部屋に来い」
「でも焼けた魚は?石狩鍋は?」
「ない」
「そんなぁぁぁあ!」
目の前にご馳走を没収さえれた後に寝室に連行された。
「今日からしばらく肉と魚を禁ずる!」
「そんなぁぁぁ!」
いきさつを事細かに話した結果、アスランは大激怒し、しばらくの間外出禁止と肉と魚を禁じられることとなった。
「アスラン様、そこまでなさることは」
「コロネ!下手をすればどうなっていたか解らないんだぞ」
「だとしても知らなかったんですし。グレーテル、お前ももうこんなことはしないだろう?」
「甘やかすんじゃない」
普段仕事に勤勉なコロネであるが娘同然のように可愛がっているグレーテルには甘かった。
結局夜にこっそりコロネが夜食を差し入れることになるのだった。
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