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第一章
40内緒のお茶会
しおりを挟む紅茶ではなく緑茶を用意される。
清の国以外の緑茶は茶葉の品質が悪く淹れるのもコツがある。
なのに出された緑茶は香りも後味も良い。
「これは…後味が甘い」
「ほぉ?舌は劣っておらぬか」
「え?」
顔が見えなかったはずの女性の顔が光で見える。
そして手が伸びる。
「貴女は誰ですか」
そっと触れた手は氷のように冷たいのに温かみを感じる。
「妾は妾でしかない。様々な名があるがな」
「あの時私に優しく声をかけてくださったのも奥様ですか」
「優しいとは違うがな。興味本位じゃ」
(嘘だ…)
朧げな記憶の中の女性。
その人の記憶はとても曖昧になりつつあったが、懐かしいお茶を飲ませて貰った記憶。
「やはりそなたであったな…」
自然と涙が零れそうになるのを手で拭う。
「今の世も生きづらいようじゃな…蔦」
「お方様…」
前世の名前を知る者はいない。
いるとすれば前世の夫であるアスランぐらいである。
「どうして…」
「あの時そなたを見た時は核心を得ることはできなんだ…だが、妾は前世でも勘が鋭かったであろう?」
「はっ…はい」
この世界では魔法があるように、前世でも女性の中で巫女の家系では不思議な力を有していた。
「でも…」
「まぁ今の世も妾はどうやら周りから怖がられる傾向があるようじゃ」
「お方様…」
前世では血も涙もない鬼のように恐ろしい女と言われたことから鬼姫と呼ばれていた。
すべては家の為でもあったのだが、その思いに気づかない者が多かった。
我が子を愛するがゆえに鬼になり。
亡き夫の残したものを守る為に心を鬼にしただけだというのに。
「お方様は誤解を解こうとなさらないのですか」
「必要ないであろう?裏切り者を炙り出すにもな?」
その言い方は遠回しに噂を鵜呑みにする馬鹿は不要だと言いたげだった。
「無能な人間はそのまま腐る。馬鹿は嫌いじゃ」
「はぁ…」
「しかし、そなたも今生でも不遇だったとは」
前世でも苦労三昧であったのは事実だ。
それでもグレーテルは不幸だとは思わないのだ。
「恐れながら…」
「良い。申してみよ」
「私は幸福でした。前世も今も」
辛い事の連続であったが満ち足りた時間だった。
「理不尽な噂を立てられ、夫は出奔するわで散々だったであろうに」
「いいえ…私は幸福でした」
辛い日々が多くても不幸とは思わない。
「今の私も不幸ではありません」
「そうか…」
第三者がどういったとしてもグレーテルは不幸ではなかったのだから。
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