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第一章

38豊穣の恩恵

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豊穣と恵が重宝されるのは理由がある。
作物が育ちやすいというだけではなく人の生死に関わるからだ。


かつて豊穣の女神はすべての国に恵みを与えた。
しかし、豊穣の恵みと言っても優劣が異なり、地の民は欲を覚え他者の恵みまで欲するようになった。


豊穣を与えし女神は決して博愛主義でもなく誰でも恵みを与えるものではない。
その為世界樹を通して恵みを与えた大地から人間の所業を見ていたのだが、他人の恵みを欲し、奪い、殺すを繰り返した愚かな人間に裁きを与えた。


そう、豊穣の恵みは何時しか災いの雨を降らせた。


恵みと災いはセットだった。
故に精霊は常に人間を見ていたのだ。

他者を慈しみ、愛情を持って育てれば大樹は輝き、世界樹に通じることもできる。

ただしその逆もしかり。
恵みの加護を正しく使えばその国は恵みに溢れ、不治の病も治せるエルフの薬草も採取できるのだ。


例えどんな厳しい土地でも花が咲き、水は清められ作物が育ち実りのある国となる。


史実にも確かな記録があるのだ。



「やはりか…」


真夜中、アスランは一人王宮内の図書室で調べ物をしていた。
ここ最近の作物に関することだけではなく、気候も安定し尚且つ、ご神体の大樹にも影響が出ていた。



「グレーテルも加護持ち。しかも豊穣の女神の加護を持っている」

本を閉じながら悩まし気な表情をする。


「加護なんて必要ない」

他の人間からすれば加護があれば交渉によっては高位な立場に立つことができる。
王族に並ぶことも、それこそ聖女として一生大切にされるだろう。


だがアスランはそんなもの望んでいなかった。


「お前は聖女にならなくていい、お姫様にもならなくていいんだ」

前世を思い出しながら憂いの表情で月を見上げる。


グレーテルは権力に執着していなかった。
ずっとそばで権力を持った後の哀れな人生を見て来たのだ。


地位があることは決して幸福ではない。
現にグレーテルは、貴族令嬢であるがために権力争いの犠牲になったのだから。


「お前は俺の隣でいればいい…万一お前の価値を知れば祖国はお前をどうするかなど明らかだ」


婚約破棄をされ、何もかも追いはぎのように奪われ。
そのうえ自由までも奪われ永遠に鳥籠に入れられるなど死ねと言っているようなものだ。


「そんなことは許さない…二度と俺から奪うなんて許さない」


アスランにとって心の拠り所だった。
主君を守る為に命をかけるつもりだったが、心はたった一人の女性にある。


「元屑婚約者を先に潰す必要がある」


二度と奪われないようにするべくアスランは筆を握った。


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