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第一章

30先王の友

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先王の言葉を聞きフェリス侯爵夫人はもしやと言う考えに至る。
貴族は多くいてもそこまで酔狂な貴族がどれだけいるだろうかと思う。


「後から知ったらがその男の先祖は私の祖父の代で祖父の窮地を救った孫らしい」

「先王陛下、その方は…」


「クロレンス家じゃ!」

声高らかに告げられた名前に絶句した。


「奥様…」

隣で給仕していた侍女は真っ青になる。


「まぁ、現クロレンス当主には伝えておらん。その方が楽しいじゃろて」

「楽しいですか」


笑っていながらもフェリス侯爵夫人は胃が痛かった。


「孫のように可愛がっていたんじゃが…病で国を出たのであれば心配じゃ」

「先王陛下は前クロレンス子爵閣下の事がお好きなのですね」

「なんせ名付け親じゃからな!」


もう何も言えない。
先王陛下が名付け親になった人物に対して何をした。


これまで田舎貴族と馬鹿にされたことは何度あるか。
普段は馬鹿にしながら己たちが困窮したら食料を流せと搾取した貴族は少なくない。


「息子以上に可愛がっておったのじゃ…妻が病にかかった時も雪山に単身で薬草を取りに行くような優しい子でのぉ。本来なら公爵程度の爵位を与えて当然の功績もある」

「どのような功績でしょうか?」

「うむ、二十年前に敵対する国の王子妃の病を治し、尚且つ砂漠を緑の領地にしたおかげで戦争は回避された」

「そっ、それは」

「それだけであありません。旦那様」

「そうだったな、当初王妃に嫌がらせをして王妃の結婚式のドレスをわざと短くしたのだが、奥方の機転でドレスを直してくれたのだ‥‥おかげで戦争は回避された」

「スバラシイデスネ…」

もう聞きたくない。
表に名を残さない英雄は多くいるが、身近にいたとは思いもしなかった。


「私の息子と同い年のこともあり、クロレンス領地で過ごさせたこともある。息子は忘れているが…兄のように慕っておった」

「先王陛下…」

「できればいい加減、ちゃんとした爵位を与えたかったのだが」


王家にとっては恩人。
本人達は自覚がないようだがここまでの功績があれば公爵の爵位を与えられてもおかしくない。


「モリ―は何所に行ったのだ」

グレーテルの父、モリアル・クロレンスの愛称だった。


「侯爵夫人、貴女の情報網なら調べられるであろう?彼はどうして…」

「先王陛下」

「私は彼に合う為に来たのだ。息女にも婚約者がいると聞いている。お祝いをしたいと思っていたのじゃ…勿論身分は隠して祖父の親友としてじゃが」


先王がどれだけクロレンス一族を愛しているか解る。

解るからこそ言いにくかった。


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