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第一章
23偽りのお姫様
しおりを挟むすべてが虚構だった。
こんなことは信じたくない。
だけど両親に抱きしめて貰ったのは何時だったか。
頭を撫でてもらったことは?
欲しい物を与えて貰うだけで、本当に欲しい物は得られなかった。
フリーシアは一番大事にされないと気が済まなかった。
服もアクセサリーも愛情もすべて欲しがった。
(どうして…私は愛されていたんじゃないの!)
まさか養子縁組をするなんて話は聞いたことがなかったのに。
「こうなったら仕方ない」
「伯爵令嬢が男爵家に嫁ぐなんて…これ以上の屈辱はないけど」
「贅沢を言うな。家格は悪いが今では資産家だろう。金はある」
「そうね」
二人にとっては娘は金を得る為の道具だったが、貴族社会では珍しい事ではない。
より裕福な家柄に娘を嫁がせ援助を受ける。
その代わり家格を得るのだが、エレフェスタ家の家柄など得ても得はない。
だが二人は自意識過剰だった。
世間は特に意識されていないことに気づいていない。
「いいかフリーシア!これ以上我が家に泥を塗るなら…解っているな」
「そんな、お父様…」
「黙れ!この出来損ないが!嫁ぎ先はもうあのバカボンしかおらん!」
バカボン。
馬鹿で使えないボンクラの略だった。
少し昔前に流行った呼び名だ。
まさしく今のカーサにぴったりだった。
「まぁあの馬鹿でも、それなりの暮らしはできる。いいか、これ以上噂を広めさせないように言え」
「そうよ。今回の噂で我が家にも損害が出たのだから…ねぇ?」
遠回しに慰謝料を請求して来いと言いたげだった。
しかしそんなことがまかり通るはずもなく。
「フリーシア様、何を言ってますの?」
「非常識だな。それが本性とは」
両親に言われた通りのままに報告したフリーシアは男爵夫妻に汚いものを見るような目を向けられた。
「慰謝料を支払って欲しいのは私達だわ」
「そんな金があるか…そもそも伯爵家が援助すべきだろ」
目の前が真っ暗になった。
「こうなった以上は、貴女にも相応の暮らしをしてもらいます」
「ああ、今までは伯爵令嬢だから甘い顔をしたが…こんなぼろ雑巾」
少し前までは媚びを売っていたのに当てが外れたとでも言いたげだった。
彼らはフリーシアに優しくしたのも婚約を認めたのも伯爵令嬢というブランドがあったからだ。
それに加え、グレーテルが婚約者だった頃は裕福だった。
現在はその影も形もない。
その怒りの矛先を我が子ではなくフリーシアに向けたのだ。
誰もが他者の所為にして自分は悪くないと思い込んだ。
その結果フリーシアは頼れるのはカーサだけだった。
だが、カーサはフリーシアを守ってくれない、守ろうともしないでいたのだった。
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