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第一章
20待遇
しおりを挟む宮付きとなったグレーテルの生活は一変した。
これまでの生活のように下働きや侍女に虐められることはなかった。
だけどかまど番を辞めたくないと訴えたら料理長が見守る範囲なら許可が出た。
アスランは厨房の仕事をさせたくないのだが、グレーテルの料理は食べたいので悩んだ末だ。
何より王宮の料理人がグレーテルを手放したくなかったので抗議の嵐だった。
「アスラン様は俺達から厨房の天使を奪うんですか」
「あんまりだ」
「そんな酷い方だったとは」
料理人の中には長年アスランと苦楽を共にした者だけでなく父親代わりになってくれた者もいるので押し切られてしまった。
「男所帯に置きたくないんだが」
「アスラン様、器が小さいですぞ」
「コロネ…」
料理長の言葉にカチンと来るが、何を言っても無駄だった。
「それにしてもあのアスラン様がねぇ?」
「私はてっきり男が好きなのかと」
「陛下の愛人という噂はやはりデマでしたか」
アスランは噂の出どころは何所だと思った。
こんな不名誉な噂を流すなんてどれだけ暇人なんだと。
「まったく我が弟ながら頭が痛い」
「姉上」
「それも全部見合いを断り、女性に興味がないから」
「ないわけではありません。生理的に受け付けない女性が多かったんです」
アスランは潔癖症とまではいかないが誰でもよいというわけではない。
「三年前に隣国の伯爵令嬢との見合いでは早々に逃げ出したな」
「あの娘は頭がおかしいのです。自分の我儘を通す為に…」
「まぁ確かに。泣けばなんでも思い通りになり。自分はお姫様だと言っていたが…あれが義妹になるのは避けたかった」
(隣国?伯爵令嬢?)
グレーテルはキョトンとする。
思い浮かべた令嬢がいたが、隣国で伯爵令嬢だけでは確定できない。
「何より香水臭くてかないません」
「文句ばかりではないか」
「私は浪費家と傲慢な女が嫌いです。民を粗末にする女は論外です」
根っからの騎士体質で、貴族至上主義な考えが嫌いなアスランは宮廷貴族の考えが受け入れられなかった。
「国王陛下の側近がそれでは後々困りますぞ」
「くっ…」
「まだまだ子供だということだな」
ダメ出しをされ続け、何も言えなくなりそっぽを向くしかなかった。
後にルクシアが王位を継いだ時はアスランが一番の側近になる。
その時に上手く立ち回らなくてはならないのだが…
「徐々に仕込んでもらえばいいだろう。妻に」
「えっ・・」
「すですな」
その役目を任される羽目になるグレーテルだった。
一方そのころ。
隣国では――。
「どうしてダメなの?私を愛してないの!」
「そうじゃないんだ」
とある邸で若い男女が口論を繰り返していた。
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