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第一章
19根回し
しおりを挟む疲れがでてしまったグレーテルはその日、自分の部屋ではなくアスランの部屋で眠ってしまった。
「余程疲れていたんだな」
グレーテルを抱きしめながらベッドに寝かせるアスランは笑みを浮かべていた。
「ようやく見つけた。もう離さない」
隣に愛する妻がいる。
これだけで先の見えない今の生活に希望が見えたのだ。
病気で、周りは敵ばかりの主をどうやって支えればいいか悩んでいた。
王宮内のほとんどが敵ばかりで、侍女も味方とは思えない状況下でグレーテルが偶然にもメイドとして仕えてくれたことは喜ばしい事だった。
「肩身の狭い思いをさせるが、どうか許してくれ」
もう離すことはできない。
見つけてしまった以上はどんな手を使ってでも手元に置く。
「問題は父君に連絡を取るか」
いくら国外追放の身となっても王族が本当に手放したか考えにくい。
自発的に国を出るのと、王命で国外追放をされるのとはわけが違うのだから。
「うっ…ん」
「無防備な事だ」
隣で眠るグレーテルに苦笑をしながらもアスランは考えていた。
クロレンス家の血筋は魔族よりも希少価値があるのだ。
その価値を知れば取り戻そうと躍起になる可能性も出てくるが、アスランは二度と国に帰す気はない。
「捨てたのは彼らだ」
グレーテルは婚約者に受けた仕打ちに傷つき、心を閉ざしていた。
「元婚約者…このままにしておくわけにないかない」
まだ幼さが残る令嬢に一生消えない傷を残したのだ。
「俺の女房を侮辱し傷つけたんだ。どう料理してやるか」
穏やかに眠るグレーテルだが、ずっと虐げられ蔑まれた事で無意識に心を押し殺す癖がついてしまっていることに怒りを隠せない。
「隣国をもう少し調べてみるか…」
詳しい事情は解っていない。
情報が少なすぎる故に、今は表立って動けないのだが…
「アスラン…」
「殿下?」
真夜中にルクシアが訪れた。
「また姉の目を盗んでいらしたのですか?」
「別に…」
ぷいっとそっぽを向けるルクシアは部屋に入ろうとする。
「誰かいるの?」
「あっ…いえ」
「アスラン、女連れ込んだの?」
「は?」
とんでもない言葉を聞き眉間にしわが寄る。
「ルクシア様、誰に吹き込まれたのです!」
幼いルクシアは世間知らずで常識が少し欠けていた。
別に頭が悪いわけじゃない。
隔離され過ぎているのが原因だ。
「アスランは両方って聞いたのに」
「両方ではなく両刀です…ではなくて!」
アスランは本気で王妃付きの侍女に殺意を抱いた瞬間だった。
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