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第一章
15尋問
しおりを挟む番の証。
その昔竜が花嫁に刻んだ伴侶の証明だった。
ただし、夫婦の契りをしたからといって証が刻まれるわけではない。
真の番でなければ証は刻まれないのだ。
証を刻む男性側の愛の熱で焼き付ける行為だが、間違えれば火傷となり綺麗に証が刻まれない。
「くっきり胸に…」
「ああ、仮のはずがここまでしっかりつくとは」
「笑いながら言わないでください」
真っ赤になって怒るグレーテルにアスランは嬉しそうだった。
「グレーテル。俺はお前に聞きたいことが沢山ある。何故お前がこの国にいるのか…」
「え?」
「お前は他国の…貴族の娘だろう」
アスランはグレーテルに触れた時にすぐに気づいた。
国によって肌の色や髪の色が特徴的で、グレーテルの肌の色と髪の色でどの国の人間か察した。
何より貴族の娘が何故他国のパン屋で働いているのか。
「お前が親に勘当されるような真似をするとは思えない」
「それは…」
「そうなれば答えは簡単だ。お前の縁談相手か?それとも王族か?」
愛剣を握る姿は前世を思い出す。
「旦那様…」
「ちゃんと答えろ。何があったんだ。答えによっては」
グレーテルは冷や汗を流す。
ここで何もないなんて言って信じる程アスランは甘くない。
演技でごまかせる自信はないし、嘘を言ってもどうにもならない。
ならば穏便に済ませる為に少しだけオブラートに包み話したのだ。
「ほぉ?お前を裏切るとは何様だ?」
「いえ…それは」
「男爵家なんて格下だろうが?子爵の身分は決して低くないはずだ。それを…」
甘かった。
できるだけオブラートに包んだのだ。
婚約者には思う相手がいて、その相手と一緒になり婚約は白紙になったと。
「そういえ隣国で似たような話があったな」
「はい?」
「聞けば婚約者を裏切り無理やり婚約解消に持ち込み令嬢を国外追放にしたとか」
(まずい…私じゃない!)
絶対に知られてはならないと思った。
「その令嬢は追放の後、魔物の出没する森に捨てられ、ゴロツキに暴行を受けた後に追いはぎにあって殺されたとか」
「へっ…へぇー…そうなんですか」
随分と飛躍されている噂だ。
確かに魔物の森を通ったが、グレーテルは山道に慣れているので魔物に遭遇しないように注意した。
(道中でドレスを売ったし、私じゃないわよね?)
途中自分が持っている物やドレスを売ってしばらくはなんとかなった。
「そういえばお前の名字を聞いてなかったな」
「クロレンスです」
国までは聞かれなかったので安堵した。
有名な家ではないので知るはずもないと思ったのだが…
「クロレンスだと!あの仏のクロレンス家の」
「は?」
仏とは何だ?
初めて聞いたのだが。
「発展途上国では有名だ。援助をしてくれる心優しい貴族がいると…緑の精霊とも呼ばれている」
(何で!)
何時の間に父がそう呼ばれたんだと疑問に思うが、確かに豊穣の女神の加護があると言われていた。
畑を耕せたら右に出る者がいなかったからだ。
だがそれだけではないことをグレーテルは知らなかった。
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