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第一章
13愛する人
しおりを挟む離宮の敷地内に入り、たどり着いたのは質素であるが清潔感のある部屋だった。
過度な美術品はないが、部屋には何故か家庭菜園が並んでいる。
(騎士らしかぬお部屋…)
部屋は綺麗に整理整頓されているのだが娯楽がまるでない。
紙の香りがして落ち着くのだ。
「椅子に座らせるぞ」
「はっ…はい」
最初こそは抵抗を試みたが、自分は平民でこの王宮の下っ端。
対する相手は名前は知らないが王家の紋章の入った剣を腰に差し、国王陛下の側近である証を身に着けてる。
どう考えても身分がずっと上だ。
下手に逆らえばどうなるかと思い大人しくした。
「傷は魔力で塞いだが、熱がある」
「だっ…大丈夫です」
「ダメだ。熱が下がるまで仕事は休ませる」
「そっ…そんなわけには」
そんなことをすれば仕事を紹介してくれたコロネにも迷惑がかかる。
給金が減れば仕送りもできなくなるのだ。
「給金に関しては問題ない」
「え?」
「お前は侍女に暴行を加えられたのなら被害者だ。治療費は侍女に負担させる。仕事を休んでも給金に影響はない」
あっさいりととんでもない事をさらりと言う。
「身分だけの怠慢をする侍女は不要だ。今回の事で家は潰されるだろうが自業自得だ」
「それは…」
あの程度でお家を取り潰されるとあまりにも厳しいお咎めだと思った。
「何故そんな顔をするんだ」
「私があんなことを言わなければ…」
言った事を今更に後悔する。
感情のままに動き、侍女達を裁かれることを望んでいなかったのだから。
「私は…」
「お前は何も悪くない。何一つ間違っていない」
そっと頭を撫でられ、グレーテルは泣きたくなった。
「勇気を持って訴えた。主君の誇りを守った」
優しい言葉を今聞くと涙が流れる。
ずっと泣くことはしない。
心を殺して耐えて来た。
(どうして…)
誰にも感情を左右されることはなかった。
なのにアスランに言われるとどうしての崩れそうになる。
「貴方は誰…」
グレーテルは思わず言葉を放った。
グレーテルの心を揺るがし、凍り付いた心を溶かすアスランは眉を下げる。
「俺は俺でしかない。お前の小さな光の道しるべになる者だ」
「えっ…」
薄れた前世の記憶がはっきりとなる。
そしてあの言葉が。
鮮明に思い出される。
『どんな暗い夜も俺がお前の道を示す。小さくとも』
『私の道…』
『お前が闇に囚われないように』
太陽のように強い光でなくとも小さくとも確かな光。
その光がグレーテルの心を照らしていた。
太陽のように静かに笑う、愛する人によって。
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