君は優しいからと言われ浮気を正当化しておきながら今更復縁なんて認めません

ユウ

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第一章

11お茶

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前世のアスランには愛する妻がいた。
政略結婚であったが、強い愛情で結ばれていた。


仕事に追われる日々で夫婦としての生活はほとんどなかった。
第三者から色々と誤解をされ仮面夫婦だとも言われていたが妻を愛していた。

言葉にはほとんどしなかったが。
前世でも食料が乏しく、極寒の地で厳しい生活だった中で妻が様々な工夫をしてごちそうを作ってくれた。

その中でも一番好きだったのは妻が淹れてくれるお茶だった。



「本日は胡桃のパンです」

「今日もフカフカだ」

「全粒子に穀物を大量に使っているそうです。小麦粉の値段があがりまして」


物価の値上がりの所為で、小麦粉を使ったパンは値段が高騰する一方だ。
下級貴族や、平民はパンを買うのも一苦労だった。


「穀物のパンは不人気ですが、このパンは別なのです」

「あ…甘い」

「バターを沢山使っているのですよ」


穀物の入ったパンは固くて舌触りが悪くパンの甘さがない。
なのにコロネが差し出したパンは舌触りも良く、胡桃の触感に甘さがしっかりある。


「コロネ、このパンを作った者は…」

「私が贔屓にしているかまど姫です」

「ままど姫?」

「下町ではかまど姫と呼ばれているのです」


パンを噛み締めながら胸がざわついた。


「まだ年若い娘ながらもしっかりした娘です。パン作りのみならず菓子を作るのが美味く。博識です」

「貴族の娘か?」

「おそらく…」

「どういうことだ」

アレクシアは普段はここまで興味を示さなかった。


「立ち振る舞いは貴族の令嬢ですが手が…下級貴族でしょうな。訳ありのようで…他国の貴族の娘だと思われます」

「他国の?」

「はい、我が国は特徴がありますからね」


雪国故に他国とは肌の色が白く特徴があるのだ。

「恐らくくお国で何かあったのでしょう…貴族の姫が単身で国を出て、パン屋で住み込みで働くぐらいです」

「そうなんだ…」

「先日もとある国で痛ましい事件が起きたと聞きます」

「ああ…あの事件か」


アスランは眉をしかめる。
同盟国ではないが何度か外交をした国は多々ある。

その国で起きた事件だ。

聞くに堪えないものだ。


「この世は男尊女卑です。女には生きにくい世ですからね…嫁ぎ先を追い出されたのかもしれませんな」

「そんな…」

「私も詳しく聞くことはしませんでしたし、すべきではないと思いました」


コロネの言葉を聞きアスランは更に心がざわついた。


(その娘は…)


一目でいいから会ってみたい。

そう思うようになった矢先の事だった。


ある事件が起きたのは。



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