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第一章

9側近の事情

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アスラン・カステルは憂鬱な思いで日々を過ごしていた。
幼少期に音楽の才と剣術の腕前を見込まれ、行儀見習いとして王宮に仕えないかと、命令が下ったが、既に十二歳の頃には傍付きを任されていた。


周りは嫉妬をしながらも元平民上がりのアスランを軽蔑の目で見ていた。
そんな折、第一王子の世話係を任された後に、病により片目を失い命を失いかけたのだ。


王族の中では加護付きの王子は呪いを受けるとも言われている。
その呪いで命を失うと御伽噺にもあるのだが、アスランはその呪いにも物おじせずに呪いを剣で斬ったのだが、片目は失われてしまった。


その功績で王子の世話係役を命じられたのだが、一部の侍女は王子を不気味だ。
呪われた子だと噂をするようになり、しかもタイミング悪く、王妃が第二子を出産した。

元気な王子だったことから愛情は弟王子に移り、周りは時期王位継承者は第二王子だと豪語され離れに隠れるようになった。


母から避けられ、多忙な父は滅多に会えない。
最悪なタイミングで毒殺事件が起きてしまい、アスランは頭を抱えた。

周りは敵だらけ。
味方は姉と数少ない傍仕えだけ。

特に侍女達は信用できず困り果てた。
食事もまったく受け付けず衰弱した第一王子のルクシアだったが。


ある日、料理長がある食事を提供した。


「料理長、これは」

「私が贔屓にしている店のパンです。こちらならば殿下のお口にあうのではと」

「しかし…」

体が受け付けないのだ。
今は魔力の供給と専属医師による点滴で命を繋いでいた。


「こちらのパンは私の通うパン屋の店の人気商品でしてな。小豆の入ったパンです」

「パン?」


小豆の入ったパンなんてこの国では売ってない。


「饅頭のようだな」

「アスラン様?」


「いや、なんでもない」


コロネをごまかしながらパンを二つに割ると甘い香りが広がる。
上質な小豆にパン生地は全粒子を使っているのが解る。


「甘い香り…」

「ルクシア様!」


眠っていた第一王子ルクシアが甘い香りに誘われて起き上がる。


「無理に起きては…」

「それ…」

アスランの手にあるパンを見つめる。
コロネは笑みを浮かべ、一緒に持ってきた水筒を取り出す。


「殿下、こちらもどうぞ」

「これは」


「このパンと一緒に召し上がってください。大変美味ですぞ」

甘いミルクティーだった。
しかし紅茶ではなく香ばしい香りがする。

「ほうじ茶というお茶のようです」

「何…」

清の国では緑色のお茶が主流だった。
しかしこの茶色のお茶はとても珍しいのだが、アスランは馴染みがあった。


何故なら彼は…


ほうじ茶を知っていたからだ。


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