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第一章
8前世の記憶
しおりを挟む騎士の娘だけあってそこそこの剣術だった。
練習用だったのが幸いだったが、二人は殴る蹴るの繰り返しをした後に。
「目障りよ!」
「きゃあ!」
炎の魔力を使われ腕が燃える。
「うっ…」
「いい気味だわ。火傷のまま痛みで死んでしまえばいいのよ」
炎は消えることがなかった。
「謝れば許してあげるわよ」
不敵に微笑む侍女に謝る気なんてなかった。
「謝罪とは悪い事をしたときに詫びることを言います」
「何?」
「私は何時悪い事をしましたか」
こんなにむきになるなんて馬鹿だと思いながらもグレーテルは前世の自分を思い出す。
かつて仕えた小さな主。
五歳で病気にかかり片目を失い母から醜いと言われ遠ざけられ多くの人が離れた。
『醜い…だから皆離れるのか』
『若様…』
幼い心に傷を受けながらも泣くことも許されなかった。
(違う…醜いのは!)
腕の痛みで前世の記憶を思い出す中、意識を保つ。
「あんな醜い王子を庇うなんて馬鹿?」
「…が…う」
腕が痛くて声が上手くだせない。
それでも今言葉にしないとだめだと思った。
「心の醜い人に言われたくない」
「は?」
「誰に言っているの?」
醜いとは何か。
人を傷つけあざ笑うことじゃないか。
どんなに見た目が綺麗だとしても自分より弱い人間を虐げ傷つけあざ笑う人間が美しいなんてことがあるはずはない。
『君は優しいから解かってくれるでしょ?』
『お願いグレーテル。いいでしょ?』
『貴女は優しいのだから』
『解るだろ?』
そしてあの一家を思い出す。
見た目だけ取り繕うとしても、心が醜くすぎた。
「片目を失うリスクを背負っておられる殿下は立派です!」
グレーテルは痛みに耐えながらも侍女二人にハッキリ告げた。
「この私に…」
「そんなに死にたいなら望みどおりにしてあげるわ!」
痛みでその場に倒れ意識を保つこともできなかった。
(逃げないと…でも動けない)
既に限界だった。
ここで気絶をしたら殺される。
(でも…)
グレーテルはまったく後悔していなかった。
(私は間違ってない…)
ここで言わなかったら前世の自分に恥じる行為をしていただろう。
「さぁ謝りなさい」
「命乞いをなさい」
「しません!」
最後の力を振り絞り告げた言葉に侍女の怒りは最高潮に達し、魔力を放つべく手をあげる。
「だったら死になさい」
「雷よ!」
ゴロゴロと雷の音がする。
雷の魔力をそのままぶつけようとした時だ。
「何をしている」
とても低い声だった。
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