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第一章
6行きついた経緯
しおりを挟むあの浮気現場を見た後、グレーテルは国を出ることを決めた。
ずっと我慢してきたが、このままではクロレンス家の財産だけではない。
侯爵家も利用されると考えた。
幼少期から何かと目をかけてくれたフェリス家は強い影響力を持つ一方で一部の貴族。
特に貴族絶対主義の公爵家と対立関係にある。
この婚約の背後にも関わっているので表向き円満に婚約解消は難しく。
打撃を少なくして婚約解消に持ち込む必要がある。
自分の身一つで侯爵家を守り、尚且つクロレンス家に関わる商人や百姓に使用人を守る方法は失踪だった。
父親にはそれとなく手紙を残した。
グレーテルの意図をくみ取ってくれることを信じて。
ただし、時間がなかったので侯爵家にはちゃんと伝えられたか自信はない。
もしかしたら誤解を受けたかもしれない。
グレーテルは母親代わりになってくれたフェリス侯爵夫人に申し訳なさでいっぱいだった。
ただ国内を抜ける際に色々トラブルはあったのだ。
まず初めに手持ちの品はすべて売り払った。
その次に王都から離れた修道院を転々としながら海から海を越えた。
慈善事業の一環で旅慣れしていたこともあるのでスムーズに行ったのだが、途中で力尽きて倒れてしまった所を通りかかりの老夫婦が拾ってくれた。
彼らはパン屋を営んでいた。
とても小さなパン屋で細々と経営していたが、腰を悪くした旦那は店を閉めようかと思っていたのだが恩返しにグレーテルはパンを焼き始めたのだが。
その腕にほれ込み、パン職人として店に出るように頼み。
話題となった後に紹介されたのがコロネだった。
元はパン職人だった王宮の料理長はグレーテルの腕を気に入り、王宮のかまど番に推薦した。
そして現在にいたる。
「はぁーポトフが胃に染みる」
「若い娘がなんて顔をしてんだ」
「いいんです。このベーコン、後で二人に届けなくちゃ」
「だったら若いのに届けさせてやるよ」
「ありがとうございます」
仕事場は厨房。
もしくは離れにあるかまどだ。
目立つことはない。
侍女や女官に会うこともまずないので女同士の争そいに目を付けられることもなかった。
「そういえば、新しく侍女が辞めたそうだぜ」
「え?」
「何でも殿下に無礼を働き、側近のアスラン様の逆鱗に触れたそうだ」
「へー…」
特に興味がなさそうなグレーテルに苦笑するコロネ。
「お前も少しは興味を持て」
「私は独身貴族になります」
「あのなぁー…」
痛い思いをしたのでこの先独身を貫いてもいいとさえ思ってる。
「結婚したからって幸せになれるわけではないでしょう?」
「まっ…まぁな」
結婚しなくてもそれなりの幸せがある。
今の生活はグレーテルにとって幸福な時間であると思っている。
ただ、愛する父や侍女に。
フェリス侯爵夫人の事を思うと胸が痛むのだった。
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