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第一章
5雪国とかまどの少女
しおりを挟む何所までも広がる草原。
この世で最も広いと呼ばれる海エーゲル。
その海に囲まれる山。
大自然に囲まれ冬は寒く、他国の人間が冬に足を踏み入れれば凍死するとも言われるほどの環境だった。
冬は永久凍土と呼ばれ、雪が止むことがない。
そのおかげで外敵に侵入されることはまずないのだがその一方で食糧難が続いていた。
しかしその一方で人の手が付けられていない美しい大自然は国宝級の宝であり、海の国と呼ばれ冬景色は絶景だった。
太陽が見えない国と他国では馬鹿にされていたが。
その雪国に明かりを灯す少女がいた。
「お待たせしました」
雪国と呼ばれるこの国、アクアシア王国。
その王宮にはかまど番をしている一人のメイドがいた。
王宮内では女性の職種は女官、侍女、メイドという階級になる。
特に炊事場の仕事は平民の中でも一番地位が低く給料も衣食住のみで後はわずかなお小遣い程度というほどのキュ量の安さだ。
その癖重労働で若い娘はすぐに辞めるのだが、少女は根を上げるわけでもなく。
独自の調理法を駆使してかまど番でありながらも現在は厨房を自由に出入りが許されていた。
「よぉグレーテル。今日もパンがいい感じに焼けたか」
「はい料理長。本日は甘いですよ」
「これは小豆か?」
「はい」
焼きあがったパンはほんのり甘い香りがした。
小豆を使ったパンに料理長のコロネ・ジョーキンは手に取り味見をする。
「美味い。小豆を入れるとこんなに美味いのか」
「はい、小豆は本来スイーツの王様です。しかも普通のケーキやフィナンシェよりも栄養価が高くて」
「お前の頭はどうなってんだ。ポンポン美味いレシピを考えやがる」
「…レシピを差し上げますので。そこに隠してあるベーコンと交換でいかがでしょう」
ニヤリと笑うグレーテルに冷や汗を流すコロネ。
「おい…」
「先日奥様にお酒を買い込んでいるのがバレましたよね?上手く隠す方法がありますが…」
「お前、交渉かよ」
「商談です。ベーコンをくださるなら…ねぇ?」
コロネには選択権がなかった。
「料理長、ベーコンぐらいいいじゃないですか」
「そうですよ。おら嬢ちゃん、ベーコンとチーズもやるぜ」
「なんだったら豚足もつけてやるよ」
「ありがとうございます!」
食料が乏しいと言われるこの国であるが自発的に狩りをしているので豚肉や鶏肉を入手薄るのは簡単だった。
ただし牛肉は困難であるが――
「うーん、今日の夕飯は豪勢になるわぁ」
豚足を抱きしめ頬ずりする姿は異様だった。
年頃の娘がすることではないが、グレーテルにとっては死活問題だったのだ。
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