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第一章
4侯爵夫人
しおりを挟む王侯貴族の中でも重要な立ち位置にいるフェリス侯爵家。
何代も続く王家を支え続けた一族の中でも穏健派として有名だった。
彼らは王族派であるが、国と民を最優先にする考えの元。
万一王家が愚行に走れば王権を奪うことも可能までのコネクションを有している。
しかし、現当主が温厚な性格であることで反旗を翻ることはなかった。
だが、彼らは表向きは控えめであるが。
実は王家の諜報員を務めており、敵には容赦がない。
そう今まさに、彼らは敵を葬るべく暗躍していた。
「報告を」
「ハッ!」
一人の女性に跪く騎士達は静かに報告をする。
「現在、辺境地をくまなく調べましたが。グレーテル嬢の目撃情報はありませんでした…ですが」
「その…」
言いにくそうにする二人にフェリス侯爵夫人扇を握る。
バキッ!
何かが折れる音がして騎士二人は冷や汗を流す。
「聞こえませんでしたの?」
「あっ…あの」
「奥様…」
「言えというとるのだ!」
「「ハッ!」」
命令に逆らえず敬礼する。
「東の辺境地にて、遺留品が」
「遺留品?」
「はっ…はい、あそこは自殺の名所ともいわれております。遺体は海の底に沈んでいるので見つけるのは難しいのですが。グレーテル嬢の装飾品が流れていたので」
「なんですって…」
真っ青な表情になりながらも必死で理性を保つ。
(いいえ、まだ本人だと決まったわけではないわ)
ガタガタと震えながらも報告を聞く。
侯爵夫人として、感情を表に出すなど愚かだと思いながらも耳を傾ける。
「装飾品だけならば私達も町で品を売ったのだと思ったのですが…」
「血だらけのハンカチに切り裂かれたドレスも流れて来たのです」
「切り裂かれた…」
最悪な事態を想像してしまう。
貴族の令嬢が一人で歩き回れば厄介な連中に目をつけれる。
召還に売り飛ばされたり、その場で乱暴され使い物にならなくなった後にどうなるか。
(本人だと決まってないわ!そうよ…)
グレーテルは決して馬鹿ではない。
自ら命を絶つなど愚かな真似はしないと信じている。
何故なら死んでは意味がないからだ。
どんなに酷い目に合っても生きていれば苦しみも乗り越えられる。
その意味を解っているのだから。
「現在鑑定士と医師に調べさせています…ドレスには大量の出血がありましたので」
「出血…」
もう聞くに堪えなかった。
だが、聞かなくてはならない。
僅かな希望にすがる思いで祈りながら騎士の二人に耳を傾けるのだった。
すべての報告が終わった後。
「許せない」
唇を噛み締め、フェリス侯爵夫人は鬼のような表情をしていた。
「搾取するだけして、今も社交界で堂々と浮気を正当化して」
フェスト男爵家にとってグレーテルは金ヅルでしかなかった。
利用価値が無くなれば簡単に捨てられる存在だったのだ。
これまでどれだけの恩恵を受けていたかも知らずに。
「絶対に許せない。許してなるものか!」
この世で一番怒らせてはならない人間を怒らせた。
王家ですら礼を尽くすフェリス侯爵家は男爵家を握りつぶすぐらいの権力はある。
社交界でも影響力が強く他国ともつながりのある彼女を怒らせたのだから。
破滅は近づいていたのだった。
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