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第一章
3身分差故に
しおりを挟むカーサは婚約者というだけでグレーテルを使用人のように利用した。
婚約者だからと言って侍女のように扱っていいはずはない。
しかし両親が身分絶対主義の性格だった。
お金で爵位を買う貴族は貴族と認めることはなく、また百姓貴族に対しても同じだった。
貴族とは選ばれた者。
平民とは違うと知らしめる必要がある。
その為に…
「カーサ、クロレンス家の娘は貴族ではない。元は平民の家柄です」
「はい母上」
「故に、貴族の娘と同等の接し方は必要ありません。常に貴方が上だと思い知らせるのです。我が家の侍女以下の格下の存在で、運よく爵位を得ただけです」
爵位をお金で得たり、褒美で得ることを良しとしかなかったカーサは、グレーテルを貴族令嬢と思っていなかった。
貴族令嬢とは気品に満ち溢れ、誇り高い存在だと思っていた。
淑女の鑑である女性こそが相応しいのだ。
「グレーテルは貴族令嬢にはあまりにもお粗末です」
「ええ、ですから貴女がしっかり教育し、決して逆らうことがないようにするのです」
「解りました」
「夫に逆らうなど言語道断。ましてや下々の身分です」
「お任せください。グレーテルをしっかり教育してやります。夫として」
この親にしてこの子供。
平民は人間以下という考えがどれ程歪んでいるか解っていない。
男爵家等は世間では平民とさほど変わらない身分であり、借金を背負っている男爵家など威張るなんてありえないのだが、彼らはグレーテルを見下すことで優越感に浸っていた。
何でも言うことを聞くグレーテルにカーサは勘違いをしている。
「カーサ、グレーテルはどうです」
「問題ありません。彼女は俺を愛しているのでなんでも言うことを聞きます」
「そう…」
何でも言うことを聞くから愛されているなんて勘違いだと気づいていない。
何故ならグレーテルはカーサを愛しているわけではない。
反抗的な態度を見せれば面倒であるし、何より父の迷惑になると思ったのだ。
ただ、この時まではまだ許される範囲だった。
カーサの行動がエスカレートしたのはフリーシアの言葉が原因だった。
「カーサ」
「何だいフリー」
「私、グレーテルの髪飾りが欲しいわ」
「あら?ではグレーテルに言いなさい」
「そうだな。フリーが欲しいというなら喜んで差し出すだろう」
フリーシアが欲しいと言えば差し出すように命じ、少し渋ると、無理やり奪うような真似をし。
そして大事な行事ごとであろうともカーサが気乗りしなければ当日キャンセルしたり、自分の都合に合わせるように命じるようになった。
頷くグレーテルの反応でカーサは婚約者を育てているのだと勝手に勘違いしたのだ。
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