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第一章
1社交界の噂
しおりを挟む社交界では噂が流れた。
とある貴族の子息が婚約者を婚約破棄に追い込み王都から追放を命じたと。
令嬢の父親には爵位と領地を返上の後、娘の責任を取らせ多額の慰謝料を請求させ尚且つ王都から追い出すべく散々な嫌がらせをしたと。
婚約破棄を言い渡した令息は婚約を結んでいた令嬢がいながら幼馴染の令嬢を愛し、婚約者を金ヅルとしか思っておらず、十年間冷遇し、侮辱し、時には侍女以下の扱いをした後に、婚約者に第二夫人となるように命じたそうだ。
断った令嬢に怒りを露わにして暴行を加え、子息の両親は一文無しで王都のハズレに捨てたと。
真冬の雨の日に、貴族令嬢を放り出した彼らは去り際にこう語っとか。
「そのまま死んでしまえと」
あまりにもひど過ぎる行いに誰もが思った。
外道の極みだと。
人として心がない、恐ろしい魔物だと。
その噂は王都のだけでなく辺境地に広がったのだ。
「聞きましてあの噂」
「ええ、カーサ様でしょう?」
「お可哀想なグレーテル様、聞けば置き去りにされた場所は魔物が出没する森だとか」
「え?私は悲しみのあまり父君と一緒に川に身を投げたとか」
「私は売り飛ばされたと聞きましたわ」
真実は解らない。
ただ解っているのは、不貞行為を働いたカーサがグレーテルを罵倒し、第二夫人になるように命じたことだ。
あげく男爵夫妻も不貞行為を正当化して、グレーテルを責めてるのを邸に出入りしていた商人が目撃していたので噂の半分は正しいと言えるだろう。
しかも、クロレンス子爵が領地と爵位を返上したことは事実なので、信憑性があったのだ。
「お優しい方でした」
「ええ、私達のような貧しい貴族にもお優しくて」
中位貴族の中では伯爵位を賜りながらもその日を生きるだけで精いっぱいな貧しい貴族も多い。
戦争により領地が焼け野原になったり、干ばつの影響を受ける領地では薬草も、食料もない彼らはクロレンス家に救われていた。
慈善活動の一環として被災地に食料を届けたり、薬草や、医師の手配もしてくれた。
時にはクロレンス領地に移民してきた民を受け入れたりと社会貢献をしていたのだ。
「酷すぎますわ」
「どうしてグレーテル様が」
「あの方は望まない婚約を強いられ、男爵に弱みを握られていたそうではありませんか」
「それにしても情がなさすぎますわ!」
社交界でカーサを弁護するものはいない。
それだけ社交界でグレーテルに非道な行いをしていたのだから。
しかしこれだけでは済まなかった。
グレーテルを幼少期より可愛がっていた侯爵夫人が倒れたのだ。
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