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序章

10婚約解消

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これ以上こんな茶番劇は無意味だ。
彼らは何が何でもグレーテルを御そうとしている。

特に男爵夫妻の目は…


「解りました」

「グレーテル」

「婚約は解消しましょう。お二人の恋を応援しますわ」


冷めた目で見ながらにっこりと微笑む。

「え?」

「以前からずっと思ってましたの。フリーシア様は伯爵令嬢ですから教育も行き届いておられますし、社交界での評判も素晴らしいのでフェスト男爵夫人としても申し分ありませんわ」


淡々と語るグレーテルは思いのほか冷静だった。


「共同事業の件は、奥方になられるフリーシア様が仕切ってくださいな。それから新しく立ち上げたレストランも」

「えっ…何?何を言っているの?婚約解消なんておかしい事を言うのね」

「おかしいとは?」

「だって貴女は今後もフェスト男爵の為に尽くしてくれるんでしょ?第二夫人となって…」


「はい?」


――愚か者めが!

グレーテルはうっかり前世の口調で言ってしまいそうになった。
それ程にフリーシアの発言は自分本位過ぎたのだから。


「おかしい事を申されますのね。そのような事は不可能ですわ。カーサはクロレンス家の婿に入る予定でしたのに。私が男爵家に…しかも第二夫人だなんて」


「えっ…」

「確かに当初はその予定だったわ。でも貴女が少し折れればいいのよ」

「そうだ聞き分けのない事を」


――ダメだ。
あまりにも馬鹿すぎて話にならない。


そう思った。
グレーテルはもはや話し合いでどうこうなる問題ではないと思った。


「我儘を言うんじゃないグレーテル。最近の君はおかしいぞ」

「優しい貴女なら…」

「私が優しいと…そういえば何でも言うことを聞くとお思いですか」

「グレーテル?」

フリーシアはキョトンとした表情をした。
まるで何を言っているか理解できないという表情だ。


「私は人形ではありません。なんでもはいはい言うことを聞く便利な人形ではありませんわ」

「そんな言い方…」

「お二人の婚約を心からお祝い申し上げます」

「なら!」

「ですが、婚約解消となった以上は今日まで援助して来たお金は返金していただきます」

「何だと!」

「ちょっと待って…」


みるみる真っ青になる男爵夫妻。
二人はてっきりグレーテルが従うと思っていた。

これまでも頷くばかりで従順だと思ったのに。


「そんな勝手が許されると思っているのか!俺との婚約を解消したらもう縁談は来ない。それどころか王都には!」

「覚悟はできております」


社交界からの追放となるだろう。
ずっと恐れていたことだが、己の身一つで片付くなら安いと思った。

せめてクロレンス家の存続だけは守りたかった。


「ごきげんよう」


完璧なカーテシーでその場を去る。


そしてその翌日。
社交界では噂が流れた。


一人の貴族令嬢が姿をくらましたのだ。

その貴族令嬢の名前はグレーテル・クロレンス。

噂では婚約者に不貞行為を働かれ、浮気を相手に妻の座を奪われ第二夫人になるように命じられ嫁ぎ先にも強要されたことに耐えかねたとか。


その所為で婚約者は徹底的に社交界で叩かれることになるのだった。


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