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序章
8浮気現場
しおりを挟むこの十年間、カーサはグレーテルを顧みることはなかった。
約束事はずべて破られ誕生日の時もイベントごとも約束をすっぽかされた。
けれど母の命日によりにもよって。
二人の浮気現場を目撃した。
「カーサ」
「グレーテル!」
よりにもよって大事な日。
用事があってこれないと言われ、墓参りに来ることはなかった。
当日にドタキャンされ、言い訳を思いつかず墓参りに婚約者の姿がないというのは異様で参列してくれた客人にはあらぬ憶測を生んだのだ。
言うまでもなく、婚約者不在の墓参りに父の機嫌はすこぶる悪かった。
「今年も参加しないとは…大事な用事とは何だ」
「それは…」
「社交界でも噂は耳にしている。グレーテル、本当にいいのか」
「はい」
社交界の噂はもはや止めることができない所まで来ている。
お父様は王都を開けることが多くすべてを把握できていなかったが、噂は所詮噂。
偽りがほとんどということもある。
半信半疑であったのだけど久しく邸に戻って来たお父様が私の持っているドレスを見て違和感を感じた。
新調したドレスは少なく。
ここ数年はドレスをリメイクしたものばかりだった。
ドレスだけではない、お父様に送られたドレスはフリーシア様の手元にあることがばれてしまった。
「グレーテル、私はお前に幸福になって欲しい」
「私は…」
「だから自由になってもいいんだ」
遠回しに望まないなら婚約を断ってもいいのだと言われたのだが、万一こちらから婚約解消を願い出たとして先方は納得しない。
男爵家側は男尊女卑。
しかも名家の貴族ではなく成り上がりの元百姓貴族を下に見ている。
爵位だけならばクロレンス家の方が上でも成り上がりであることを馬鹿にしているので態度を変えることはない。
「確かに私は百姓貴族出身だ。だがな、この国の貴族の半数は領地で畑を耕している。宮廷貴族は自身で何も作らない」
「お父様」
「お前は天女と呼ばれる母の血を継いでいるんだ。針一本で人を救ってきた母、包丁一本で多くの人を幸福に導いて来たんだ」
グレーテルの母は国一番のお針子だった。
平民でありながら侯爵家の目に留まり多くのドレスを仕立てて来た。
その才能ゆえに神のお針子。
別名機織り姫とも呼ばれるほどだ。
「私は結婚というものにお前を縛りたくない…ずっと我慢しているのは知っていた」
「そんな…」
「だが言えなかった。お前が隠そうとしているから…この婚約は王命でもある。だがあのバカ息子が不義を働き、万一お前を侮辱するならこの婚約は白紙に戻そう」
子爵の地位ではそんな真似できないのを解っていながら猶も告げた。
「良いか、相手側に過失があるならば解消は可能だ。どうしてもと思うなら遠慮はいらん」
万一婚約解消をすればクロレンス家の名に傷がつく。
そうなれば今まで築き上げた地位は落ちてしまうので無理だと思っていた。
だけど…
この光景を目の当たりにしては我慢の限界が来た。
「今日はフリーシア様の看病に来ていたのではなかったのですか」
二人抱き合い、男が女を押し倒している光景。
しかも傍にはアルコール度数の強い酒。
完全に遊んでいたことは明白だ。
「お二人共ご一緒に…」
「グレーテル、私は!」
「いいんだフリー!グレーテル、俺はフリーを愛している!これ以上家の為に心を殺せない!」
真っ先に思ったのはこの男は馬鹿ではないか?と思った。
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