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序章
6婚約者の怒り
しおりを挟む朝早くから約束もなく邸に入って怒鳴り声をあげるカーサ。
「聞いたぞ!昨夜事を」
「何をですか」
「しらばっくれるな。見ず知らずの夫人の馬車に乗せてもらい帰って来たのか!」
自分の事を棚に上げて責めるカーサ。
「貴方達が私が帰るはずの馬車で帰ったからです」
「それは…だが、辻馬車で帰ればいいだろう!」
自分が理不尽な事を言っている自覚がない。
周りに使用人がいるのに昨日の事を語るカーサに呆れる。
「奥様が私の為に馬車を用意してくださったのにわざわざ辻馬車を呼ぶなんて真似を?」
「だが…君ならもっと上手く立ち回れたはずだ!それに第三者にべらべらとフリーの事を…」
その先は言いにくそうにしている。
やましい事があるのだと判断したがあえて聞くことはなかった。
「私は何も言っておりません。普段から余計なことは口にしていません。私をそこまでお疑いになるなら侯爵家の使用人にお聞きください。侯爵家にいたるところに護衛騎士や使用人がおりますので」
「もうい…」
その時だった。
タイミング悪く入ってきたもう一人の招かざる客。
「カーサ!」
「フリー」
「ごめんなさいグレーテル、私が昨夜カーサにエスコートを頼んだから。貴女はずっと壁の花だったのね?だから怒って…」
「君が悪いわけじゃない」
「悪いのは私なの。エスコートを頼んだから」
「フリーを一人にできるわけがない。グレーテル君は優しいのだから解かってくれるだろ」
何時もの言葉だ。
ずっと言われてきたから慣れている。
まるで呪文のようだ。
「私はいつもの事だと割り切ってますわ」
「何だその言い方は!フリーがここまで言ってくれているのに」
「私にどうしろというのです…」
何時もなら上手く流すだろう。
だけど朝から騒がれてしまい憂鬱だった。
「やっあぱり怒っているのね!優しい貴女を傷つけてしまって」
「フリーがここまで言っているんだ。謝れ」
「黙って聞いてれば、お嬢様を何だと思っているのです!」
我慢できなくなった侍女のシアン声を荒げるも、グレーテルが止めに入る。
「申し訳ございません」
「解ればいいんだ。何時もの君らしくない」
「優しいグレーテルだもの。許してくれるわね」
何時ものことだ。
やり過ごすだけだと言い聞かせているのに昨夜の夫人の事を思い出してしまう。
(私は何をしているのだろう)
こんなことを繰り返しても同じなのに。
解っていても波風を立たせてはならないのだからと言い聞かせている自分に嫌気がさす。
だが、相手は伯爵令嬢。
しかも自分のような成り上がりの貴族ではない。
伯爵令嬢を怒らせてはならない。
その一方で二人に失望感が強くなっていく。
優しいからという都合のいい言葉を聞くのも聞き飽きたのだ。
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