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序章

プロローグ

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軽やかな音楽に豪華絢爛なシャンデリア。
美しい花が飾られた邸で盛大に行われたパーティーでは男女がダンスを踊っていた。


「見てまた壁の花よ」

「気の毒に」

しかし一人だけ壁に花であれば注目を浴びる。
それが社交界デビューもしていない令嬢ならばまだ良かった。

既に社交界デビューを果たし、公の場では婚約式を行っている身としては憂鬱な気分になる。


「これで何度目かしら?」

「婚約して十年、エスコートされたのを見たことがあって?」

同年代の令嬢は好奇心の目でヒソヒソ話す。
最初は傷ったが今はもう何とも思わなくなった。


何故なら。


「すまないグレーテル、君は優しいから解かってくれるだろ?」

「ごめんなさいグレーテル」


パーティー当日に婚約者同伴のパーティーに行く直前に、婚約者からドタキャンをされた。
相手は婚約者、カーサ・フェストの幼馴染フリーシアがパーティーに同行して欲しいとのことだ。

「人が多いし、カーサなら安心だもの!いいでしょ?」

「では私は不参加で…」

「何を言っているんだ。君も参加しないと侯爵様が心配する」

「けれど、一人で…」

「大丈夫よ!一人で行けばいいわ」


悪気のないフリーシアは解っていない。
婚約者がいながら一人でパーティーに行くことがどういうことなのか。

「だけど…」

「君は一人で大丈夫だろ?今までも一人で参加していたじゃないか」

「カーサ様…」

解っているのか解っていないのか。
自覚がないとは達が悪いと思ったが言っても無駄だと思った。


「解りました」

「それから貴女のドレスを貸して欲しいの」

「えっ…」

「あのドレス、私着てみたかったの」

「ああ、君に似合うと思ってすぐに針子を呼んで裾を直させた」

勝手に本人の了承もなくドレスを作り直したという発言に絶句した。


「あれは…」

「いいでしょう?」

「時間がない、侍女を呼ぶ時間がないな」

「大丈夫よ。グレーテルがしてくれるわ。いいでしょ?」

「そうだな。馬車は一台しかないから…君は別ので行ってくれ」


二人は悪気がなかった。
そのことに関して何かを言っても無駄だと解っていた。

だから頷くしかない。


「解りました。すぐに準備をします」

「ありがとうグレーテル」

「君は優しいからな」


これが口癖だった。
二人はこうしてグレーテルに我儘を通していたのだ。

断ろうとしても遮り自分達の要求を通らせようとしたのだ。




「はぁー…」


ここに来るまでの事を思い出しながらため息をつく。


同情的な視線と蔑む視線。
十年間続いているので既に慣れたが、このままこの生活が続くと思う憂鬱だった。


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