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66新たな門出

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親しい人たちに見送られる形で私達はひっそりと国を出た。


本当なら堂々と言いたいところだけど。


「面倒な輩に見つからないためだ。私も見送りはここまでだ」

「お父様」

「父上はこの国に留まるのですか」


既に祖国に愛着がないのかお兄様はこの国と言った。


「王妃陛下をお支えしたい…この国はこれから変わるべきなのだから」

まだまだすべきことがあるし、お父様自身もこの国を捨てることはできないようだ。


「リゼ、体に気をつけるのだぞ」

「御心配には及びません父上!この私…」


「お前が同行するのが一番心配なんだ!」


お父様が胃を押さえながら告げた。
もはや止めるという選択はなかったようだ。

止められるならば止めているだろうし。


「レグルス殿下、息子が馬鹿をしたらならば…」

「そうならないことを願います」


遠い目をするお父様。
レオも虚ろな目をしているけど、私も少し胃が痛くなってきたわ。



こうして大所帯で隣国に渡ることになった。


勿論アンナも同行することになっている。




「随分と質素な馬車ですね」

「道中見つからないようにですよ」


御者の恰好をしているのはアリエットだ。
その隣にはアンナが座っている。




「本来ならば一番近くの港に行きたいが、極力目立たないようにするためです」


「しつこそうですものね…侯爵家と伯爵家」


「ええ…ですから少し仕掛けをしてあります」


仕掛けとは何のことだろうか?
笑っているだけで詳しくは教えてもらえない中、馬車で道を抜けて行き、隠れるようにして船が止まっている港に到着した。



馬車の中は質素であるが悪くなかった。


ただ旅慣れていないステラは大丈夫かと思ったが…


「アルステッド様!私も狩りをしたいです!」


馬車での道中、お兄様は馬に乗り移動だったが、狩りをしたりと暇をつぶしていた。
狩りで得た獲物は昼食にいただいたのだけど、ステラは興味を示した。


「なんとも逞しい方なのでしょう」


「ああ、図太いな。本当に」


アンナは感心し、レオは呆れていた。
でも、微かに笑っているのを見て安堵していると思った。


ステラはレオを嫌っているようにも見えるけど、レオは違う。
本当に素直じゃない人。



そう思いながら旅を楽しみながら時間を過ごしている私だったが、その間にあの二人がどうしているかなんて考えもしなかった。


同時に学園でも大惨事が起きているとも夢にも思わなかった。


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