75 / 96
61責任の重さ
しおりを挟む風のような速さだった。
肉眼でとらえることができなかった。
気づくとナイフは床に叩きつけられ、アグネスは腕をひねり上げて押さえつけられていた。
「いい加減にしろ」
「痛い!止めてぇ!」
「今頃か弱いふりをしても無駄だ」
泣きそうな声を出すも誰も同情はしない。
「レグルス様!」
「アリオット、この女を拘束しろ」
「承知しました」
風のように早い対応だった。
「正直、君達には幻滅している。この学園は気に入らないことがあれば暴力を振るい、このような狼藉をするのか」
「お言葉ですが、彼女と我らを一緒にするのは…」
レオの言葉に異論を唱えたのはケネオス様だった。
「君はこれまで、何をしてきた?」
「は?」
「部外者の立場では言う資格はないのは解っている…だが、彼女だけが何故責任を負わされた?君も同じ辺境貴族の者で学園の風紀を嘆いていたのなら何故だ」
「それは私の仕事では…」
「責任を押し付け、自分は関係ないと言って逃げていたんだろう」
「随分な言い方ですね」
レオは今でも悔やんでいたのかもしれない。
何もできないことを。
留学生であるレオはできることは限られていた。
でも、働きかけてくれていたことは後から知ったのだけど、過去の事をまだ悔やんでいた。
「関係ないならば、今後の警備責任と風紀の乱れは君一人ですべて責任を取るということだな。現時点での問題も」
「なっ!」
「アグネス嬢を一人で校舎を歩かせる許可を出したのは君か?それともこの場にリーゼロッテ嬢がいるのを解って接触させたのか?」
「それは…」
レオの言葉に何も言えなくなる。
そもそもアグネスは普通の生徒と異なった扱いを受けている。
一人で勝手に出歩くことは許されるのか?
何より私と簡単に接触できたことに今更ながら違和感を感じた。
「危険行為をする生徒を野放しにしておいて彼女を責めるのはどうなんだ」
「彼女に関しては私の仕事では…」
「リーゼロッテ嬢は、在学してからの二年間。常に目を配っていたが?君はどうだ」
レオの言葉に周りの生徒の非難がケネオス様に集中した。
「確かにそうよね」
「あんな危ない生徒を野放しにするなんて」
「リーゼロッテ様が警備責任をしていた時は大事にならなかったわね?」
静観していた生徒が口々に言い出す。
私の仕事は本当に地味で気づかれにくいものだけど、見てくれている人はちゃんといるのだと解って嬉しかった。
「せめて彼女の今後はちゃんと見て欲しいものだ…そういえばもう一人謹慎中の生徒がいたな」
「え?」
「彼も来週には復学するそうだが、彼の監視役は君がするのだろう?」
「はい?」
サリオンの事だった。
彼も謹慎処分が解けた後もこの学園に通うことが義務付けられている。
でも、まさかその監視役が彼だったとは。
「君は辺境家の代表であるならば彼の監視もしっかりしてくれるのだろう?間違っても他の生徒に危害がいかないように…それから他のトラブルも君ならば完璧に処理してくれるのだろうな」
「そんな…」
ようやく彼は気づいたのかもしれない。
学園内のトラブルを完全に回避なんて不可能なことを。
できるのは中位を促し、被害を最小限にすること。
管理するなんて不可能なのだから。
「使えないと思いましたが多少は役に立つんですね。多少はですが」
「ああ、ミジンコ程度だが」
そしてキャンベルさんとお兄様、どれだけレオが嫌いなのかしら。
2,800
お気に入りに追加
8,020
あなたにおすすめの小説
「だから結婚は君としただろう?」
イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。
黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。
救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。
プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。
それを。
あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。
アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。
…そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。
けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。
「君を愛することはない」
と。
わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
もううんざりですので、実家に帰らせていただきます
ルイス
恋愛
「あなたの浮気には耐えられなくなりましたので、婚約中の身ですが実家の屋敷に帰らせていただきます」
伯爵令嬢のシルファ・ウォークライは耐えられなくなって、リーガス・ドルアット侯爵令息の元から姿を消した。リーガスは反省し二度と浮気をしないとばかりに彼女を追いかけて行くが……。
奪われたものは、もう返さなくていいです
gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
婚約者の断罪
玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。
見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。
しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。
親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる