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60二つの手

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周りの視線は変わらない。
ケネオス様も私を見る目は決して優しいものではない。


なのに私の心は穏やかだった。


「リーゼロッテ様」

「私は今、とても清々しい気持ちです」

そう、言ってみれば湿気のある部屋に喚起を行った後のような。


心地よい風が吹いているようだった。


「貴女のおかげです」

「私?」


「ええ」


きっと、私にきっかけをくれたのはキャンベルさんなのかもしれない。

勿論、彼女だけではないけど。
私の環境に変化を与えてくれたのは間違いなく彼女だわ。


環境の変化を与えてくれたのはキャンベルさん。
そして手助けをしてくれたのはレオだった。

孤立していた私に手を差し伸べ、黙って話を聞いてくれた。


「きっかけをくれたのは貴女、そして一歩を踏み出す勇気をくれたのはレオだったから」


「リゼ…」


「リーゼロッテ様」



一人だったら決断ができなかったかもしれない。


私は勝手に自分の殻に閉じこもり、一人だと思い込んでいた。
抜け出す勇気をもっと早く持つべきだったんだ。


「良く言った!お兄ちゃまは嬉しいぞ!」

「お兄様…」


「ただ、レグルス殿下は省け。弱っていたから縋ってしまっただけだ!そうだ、お前の恋は勘違いに違いない」


「相当俺を省きたいようだな!」

「当然です。愛しの妹に近づく男は全員敵です!兄ならば当然です」


お兄様、当然ではありません。
普通の貴族ならば、ここまで甘やかさないようなのだけど。


我が家が他所と違うのだけなのだけど。



「さぁ行こうじゃないか」

「いいえ、私と一緒に」

「では二人でエスコートしようではないかステラ嬢」


「はい!」


この二人、本当に仲がいいわね。
阿吽の呼吸が揃ったかのように気が合っている。


「あの二人が一緒になると嫌な予感しかしないな」


「レオ、私もですわ」



根拠はないけど、なんとなくだけど。
二人はトラブルメーカーだと思っているので間違いではない。




「…け…いで」


背を見せて歩く私に、アグネスが何を言っているか聞こえていなかった。


だから気づけなかった。



「ふざけ…な…」


過去を振り切った私とは正反対に、過去を捨てることができないアグネスは現実を受け入れることができなかったのか私に殺意を抱いていた。


「アンタなんて!」


「リゼ!」


「えっ…」


アグネスが懐からナイフを取り出し走って来た。


周りは咄嗟の事で反応できなかった。

女子生徒が悲鳴を上げる中、私はキャンベルさんの腕を引き、お兄様の傍に突き飛ばした。


「アンタの所為で!」


「リゼ!」


アグネスの怒りはまっすぐに私に向けられていた。


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