上 下
43 / 125

32とある少女の苦悩⑥

しおりを挟む



誰もいない場所に行きたい。
そう思いながら中庭の方に逃げ込んでいた私。



行く当てもなくとぼとぼ歩いていると声をかけられた。


「おいお前!」

「はい?」


振り返ると顔は知らないけど、アグネス様と一緒にいる男子生徒だった。
名前は解らない。


バッジを見ると特別クラスではないのは解る。


「ハッ、貴様のような女が特別クラスとは」


「サリオン」

「ああ」


私を蔑んだ目を向けながらまるでゴミを見るような目だった。



「こんな小賢しい女に殿下は何故」

「理解に苦しむわ。こんな女に」


明らかな悪意を感じる。
今までにも敵意を感じたけど、二人が私を見る目はまるで…



人を見る目をしていない。


「平民風情が、どこまでも下品なことだ。どうせ親も下品なのだろう?」


「言っても仕方ないわ。殿下を上手く誑し込んだのでしょうけど…」


下品?
私を馬鹿にするならばまだしも何故両親まで言われないといけないの?


「リーゼロッテも何故こんなのを庇うのかしら」

「本当に使えないな…婚約者として恥ずかしい」



この人…


リーゼロッテ様の婚約者なの?

なのに他の人と?
まるで恋人のように振舞い、挙句の果てにリーゼロッテ様に酷いことを。




二人の蔑んだ視線と罵倒を浴びせられる中、私は恐怖心よりも不快感を抱いた。


怖くないわけじゃない。


でも、それ以上に嫌だと思った。


お父さんとお母さんを馬鹿にされることも。


唯一私に親切にしてくれたリーゼロッテ様を侮辱されることも。



「私は…」


拳を握り声をあげた。


「私は貴方達に小賢しいと言われるような真似をした覚えはありません」

「は?」

「私の両親を初対面の貴方に侮辱されるいわれはありません。会ったことがない私の両親の何を知っているんですか」


「貴様!何様だ!」


この時私は無知だった。
平民である私が貴族の二人に言い返すことがどういうことなのか理解してなかった。


「平民の分際で、口越えたをするな!」


「あっ!」


強い力で突き飛ばされ地面に膝をつく。

「貴様のような卑しい女は地面に這いつくばっているのが似合いだ!そもそも貴様のような女がこの学園にいること自体が間違いなんだ!」



理不尽な言い分だった。
こんな差別を受けて、我慢しないといけないの?


私はずっとこの学園で頑張って来た。


不正だってしてないし、実力で入ったのに…


でも二人は私の言葉なんて聞かない、聞こうともしない。



「いい加減身の程を弁えなさい」

「みっともないと思わないのか」


逃げることもできず伸ばされた手に抵抗もできないでいた時だった。




「二人とも!」


あの人の声がした。





「何しているの貴女達!」



私を守るように庇ってくださったリーゼロッテ様は私を助け起こしてくださった。


けれどこの後。


あんなことになるなんて思いもしなかった。


しおりを挟む
感想 485

あなたにおすすめの小説

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

いくら何でも、遅過ぎません?

碧水 遥
恋愛
「本当にキミと結婚してもいいのか、よく考えたいんだ」  ある日突然、婚約者はそう仰いました。  ……え?あと3ヶ月で結婚式ですけど⁉︎もう諸々の手配も終わってるんですけど⁉︎  何故、今になってーっ!!  わたくしたち、6歳の頃から9年間、婚約してましたよね⁉︎

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

どうか、お幸せになって下さいね。伯爵令嬢はみんなが裏で動いているのに最後まで気づかない。

しげむろ ゆうき
恋愛
 キリオス伯爵家の娘であるハンナは一年前に母を病死で亡くした。そんな悲しみにくれるなか、ある日、父のエドモンドが愛人ドナと隠し子フィナを勝手に連れて来てしまったのだ。  二人はすぐに屋敷を我が物顔で歩き出す。そんな二人にハンナは日々困らされていたが、味方である使用人達のおかげで上手くやっていけていた。  しかし、ある日ハンナは学園の帰りに事故に遭い……。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

処理中です...