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32とある少女の苦悩⑥
しおりを挟む誰もいない場所に行きたい。
そう思いながら中庭の方に逃げ込んでいた私。
行く当てもなくとぼとぼ歩いていると声をかけられた。
「おいお前!」
「はい?」
振り返ると顔は知らないけど、アグネス様と一緒にいる男子生徒だった。
名前は解らない。
バッジを見ると特別クラスではないのは解る。
「ハッ、貴様のような女が特別クラスとは」
「サリオン」
「ああ」
私を蔑んだ目を向けながらまるでゴミを見るような目だった。
「こんな小賢しい女に殿下は何故」
「理解に苦しむわ。こんな女に」
明らかな悪意を感じる。
今までにも敵意を感じたけど、二人が私を見る目はまるで…
人を見る目をしていない。
「平民風情が、どこまでも下品なことだ。どうせ親も下品なのだろう?」
「言っても仕方ないわ。殿下を上手く誑し込んだのでしょうけど…」
下品?
私を馬鹿にするならばまだしも何故両親まで言われないといけないの?
「リーゼロッテも何故こんなのを庇うのかしら」
「本当に使えないな…婚約者として恥ずかしい」
この人…
リーゼロッテ様の婚約者なの?
なのに他の人と?
まるで恋人のように振舞い、挙句の果てにリーゼロッテ様に酷いことを。
二人の蔑んだ視線と罵倒を浴びせられる中、私は恐怖心よりも不快感を抱いた。
怖くないわけじゃない。
でも、それ以上に嫌だと思った。
お父さんとお母さんを馬鹿にされることも。
唯一私に親切にしてくれたリーゼロッテ様を侮辱されることも。
「私は…」
拳を握り声をあげた。
「私は貴方達に小賢しいと言われるような真似をした覚えはありません」
「は?」
「私の両親を初対面の貴方に侮辱されるいわれはありません。会ったことがない私の両親の何を知っているんですか」
「貴様!何様だ!」
この時私は無知だった。
平民である私が貴族の二人に言い返すことがどういうことなのか理解してなかった。
「平民の分際で、口越えたをするな!」
「あっ!」
強い力で突き飛ばされ地面に膝をつく。
「貴様のような卑しい女は地面に這いつくばっているのが似合いだ!そもそも貴様のような女がこの学園にいること自体が間違いなんだ!」
理不尽な言い分だった。
こんな差別を受けて、我慢しないといけないの?
私はずっとこの学園で頑張って来た。
不正だってしてないし、実力で入ったのに…
でも二人は私の言葉なんて聞かない、聞こうともしない。
「いい加減身の程を弁えなさい」
「みっともないと思わないのか」
逃げることもできず伸ばされた手に抵抗もできないでいた時だった。
「二人とも!」
あの人の声がした。
「何しているの貴女達!」
私を守るように庇ってくださったリーゼロッテ様は私を助け起こしてくださった。
けれどこの後。
あんなことになるなんて思いもしなかった。
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