上 下
43 / 96

32とある少女の苦悩⑥

しおりを挟む



誰もいない場所に行きたい。
そう思いながら中庭の方に逃げ込んでいた私。



行く当てもなくとぼとぼ歩いていると声をかけられた。


「おいお前!」

「はい?」


振り返ると顔は知らないけど、アグネス様と一緒にいる男子生徒だった。
名前は解らない。


バッジを見ると特別クラスではないのは解る。


「ハッ、貴様のような女が特別クラスとは」


「サリオン」

「ああ」


私を蔑んだ目を向けながらまるでゴミを見るような目だった。



「こんな小賢しい女に殿下は何故」

「理解に苦しむわ。こんな女に」


明らかな悪意を感じる。
今までにも敵意を感じたけど、二人が私を見る目はまるで…



人を見る目をしていない。


「平民風情が、どこまでも下品なことだ。どうせ親も下品なのだろう?」


「言っても仕方ないわ。殿下を上手く誑し込んだのでしょうけど…」


下品?
私を馬鹿にするならばまだしも何故両親まで言われないといけないの?


「リーゼロッテも何故こんなのを庇うのかしら」

「本当に使えないな…婚約者として恥ずかしい」



この人…


リーゼロッテ様の婚約者なの?

なのに他の人と?
まるで恋人のように振舞い、挙句の果てにリーゼロッテ様に酷いことを。




二人の蔑んだ視線と罵倒を浴びせられる中、私は恐怖心よりも不快感を抱いた。


怖くないわけじゃない。


でも、それ以上に嫌だと思った。


お父さんとお母さんを馬鹿にされることも。


唯一私に親切にしてくれたリーゼロッテ様を侮辱されることも。



「私は…」


拳を握り声をあげた。


「私は貴方達に小賢しいと言われるような真似をした覚えはありません」

「は?」

「私の両親を初対面の貴方に侮辱されるいわれはありません。会ったことがない私の両親の何を知っているんですか」


「貴様!何様だ!」


この時私は無知だった。
平民である私が貴族の二人に言い返すことがどういうことなのか理解してなかった。


「平民の分際で、口越えたをするな!」


「あっ!」


強い力で突き飛ばされ地面に膝をつく。

「貴様のような卑しい女は地面に這いつくばっているのが似合いだ!そもそも貴様のような女がこの学園にいること自体が間違いなんだ!」



理不尽な言い分だった。
こんな差別を受けて、我慢しないといけないの?


私はずっとこの学園で頑張って来た。


不正だってしてないし、実力で入ったのに…


でも二人は私の言葉なんて聞かない、聞こうともしない。



「いい加減身の程を弁えなさい」

「みっともないと思わないのか」


逃げることもできず伸ばされた手に抵抗もできないでいた時だった。




「二人とも!」


あの人の声がした。





「何しているの貴女達!」



私を守るように庇ってくださったリーゼロッテ様は私を助け起こしてくださった。


けれどこの後。


あんなことになるなんて思いもしなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「だから結婚は君としただろう?」

イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。 黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。 救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。 プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。 それを。 あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。 アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。 …そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。 けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。 「君を愛することはない」 と。 わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

もううんざりですので、実家に帰らせていただきます

ルイス
恋愛
「あなたの浮気には耐えられなくなりましたので、婚約中の身ですが実家の屋敷に帰らせていただきます」 伯爵令嬢のシルファ・ウォークライは耐えられなくなって、リーガス・ドルアット侯爵令息の元から姿を消した。リーガスは反省し二度と浮気をしないとばかりに彼女を追いかけて行くが……。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

婚約者の断罪

玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。 見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。 しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。 親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...