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29帰還
しおりを挟む翌日、朝一番でお父様とお兄様が帰還した。
帰還というにはかなり乱暴だった。
「リゼ!ああ、心配したぞ!」
「お兄様…」
「あの屑を殺してやりたかったが謹慎処分と聞いて近寄れなかったんだ。だから代わりに伯爵家をボコボコにしておいた」
「ボコボコ…」
第二騎士団の団服は銀と青なのだが、真っ赤に染まっている。
「お兄様、段服の色が赤く…第一騎士団に移動になったのでしょうか」
「ははっ!面白いことを言うな。そんなわけないだろ?」
「リゼ、この馬鹿は団服を染まるまで暴れまわったのだ。そう、死人が出るかというぐらいに」
安易に想像できるのが嫌だわ。
でも、団服が真っ赤に染まっている理由が解る。
「安心しろ。ずべて返り血だ。ついでにあの性悪あばずれ勘違い自称令嬢を脅しておいた」
酷い!
ここまで言うなんてと思ったけど。
「失礼いたします。お二人ともタオルと冷たい飲み物を」
「アンナ…すまないな」
「久しいな我が心の友よ」
「ご無沙汰しておりますアルステッド様」
相変わらずお兄様に対してクールね。
お父様に対しては敬意を持っているのだけどアンナはお兄様に少し厳しい。
でも気にしないお兄様だけど。
「殿下、この度は…」
「シネンシア辺境伯爵、どうか頭をお上げください」
「娘を助けていただき、なんとお礼を」
お父様は王族に礼を尽くすような感じではない。
敬意を持っているけど親しみを感じた。
「久しいな」
「これはミカエラ様」
「気色悪いわ!お前に様呼びされては吐き気と下痢になるわ」
「母上!」
そしてミカエラ様のお父様への態度。
「気にすることはない」
「王妃陛下?」
「あれが二人の通常運転だ。まぁミカエラからすれば大事な親友を奪った嫌な男ではある。だが不仲ではない」
「そうなのですか?」
「実際、君の母君の夫として泣く泣く許したのだから」
それって仕方なく認めたということでは?
「問題ない」
ならばいいのだけど。
「リゼ、殿下との婚約は私もお前の母シャルロッテも望んでいたので反対はしない。だが隣国に行くとなれば今までのようにはいかない」
「お父様…」
「お前は判断を見誤った。周りが助けようと手を伸ばす中気づかなかったのだ。隣国ではもっと酷い目に合うこともあるだろう。レグルス殿下の婚約者となればもっと陰湿な嫌がらせは確実だ」
サリオンとの婚約期間。
私は間違った判断をしてしまっていたのだ。
「通常政略結婚はどんな理不尽な扱いを受けても個人の意思で断ることは許されない…だがやりようはあったはずだ」
「父上、傍にいなかった私達も原因があります。私達を王都から引き離し死地に送ろうとした貴族達の策略にはまったのも原因です」
「その点に関しては王族の不始末だ。これまでの失態、何より婚約者を野放しにした息子が根源だ」
誰もが責任がある。
誰か一人が悪いのではないと王妃陛下はおっしゃられたけど。
私の立ち振る舞いが悪かったのがそもそもの原因だった。
「私も大人になればよかったんです。婚約者が何をしても関心を持たなければよかった」
「リゼ…」
「そもそも私達の間に気持ちなんてないのですから」
心の底で私は比べていたのかもしれない。
お父様とお母様の夫婦仲と比べていたのだから。
二人は多くの苦難を乗り越え、揺るぎない信頼を築くまで時間がかかるはずなのだから。
「隣国に行けば私は何もできない。宰相閣下もな…今よりも孤独だろう」
「はい」
「それでも戦えるか?今度は独りよがりな戦いでは勝てないぞ」
「今度こそ間違えません」
あの時とは違うのだから。
「お前は一人ではない。隣国に行ってもしっかり頑張るのだぞ」
「はい」
「母の祖国だ。きっと幸せになれる」
お父様に抱きしめられ、私は涙を流した。
こうして私の婚約は正式な手続きは秘密裏に行われ、学園には隣国へ留学した後に一年間カスメリア王国の王立学園を卒業したら卒業資格を得るということで話しが纏まった。
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