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第三章
17予防線
しおりを挟む公爵夫人の計らいで常にフィル様と行動を共にするように言われたけど。
「流石に迷惑では?」
「冗談を。俺は君といられて嬉しいよ。できればずっと一緒にいたい」
「それは…」
時折予測しないでドキッとするようなことを言われてしまう。
本当に心臓に悪い人だわ。
正直、ロイドと比べるのも失礼だと思うけど。
喪女には厳しいわ。
「慣れてくれ」
「そう簡単に行きません」
「なら毎日言わないとな」
「私に死ねと?」
こんなことを毎日言われた正直に言おう。
精神的に死ぬわ。
「自慢ではないですがこれまで甘い言葉を囁かれたことは皆無ですので」
代わりに罵倒を浴びせられて容姿がどうのこうのと散々言われたのだけど。
「ほぉ?元婚約者のあの男は何所まで自意識過剰の勘違い男なんだ」
「は?」
普段優しいフィル様の表情が先程の公爵夫人にそっくりだった。
「私は自然な君が好きだ」
「ありがとうございます」
「だが、着飾っている君も見たいという欲望がある」
「欲望ですか」
別に欲望じゃないだろう。
確かに我が家は質素倹約がモットーだった。
使うべき時にはドンと使うけど、基本はケチだ。
倹約に倹約を重ねている。
本当にお金を使う瞬間を弁えている。
前々世でいう成金のように湯水のようにお金を使うのは馬鹿がすることだと思っている。
散財だって理由があってするのだから。
「俺の為に着飾ってもらっていいか?」
「はい」
ずっと質素に慎ましやかにして来たけど、着飾るべきタイミングの時に着飾るべきだわ。
「キャシー様、すごく素敵です」
「新しい髪飾りですのね。しかも銀細工だなんていい趣味ですわ」
フィルの計らいで、少しだけ髪の毛を編み込みにした。
これまで眼鏡をかけていたけど、眼鏡をはずして少しだけ化粧も変えて見た。
「綺麗だよキャシー」
「ありがとうございますフィル様」
社交界では婚約者や恋人の瞳と同じ色の髪飾りをつける習慣がある。
別名、私は貴方のものですというアピールをする象徴でもある。
「これだけしたのですから生徒は勘違いをしないでしょうね」
「ええ、これであの馬鹿男が勘違いしたら頭いっちゃっていると思われますね」
頭いっちゃつているって…
「もう少し言い方を」
「だってキャシー様」
まぁ、これで少しは大人しくなると思った。
・・・なのだけど私の認識は甘かったようだ。
「キャシー!俺の気持ちに答えてくれる気になったんだな!」
一度頭がおかしくなった男は止まらなかった。
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