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第三章
12先手
しおりを挟む嫌がらせのような手紙が続く中、私は見るだけでもげんなりしてしまう。
「お嬢様、そのようなものを見てはなりません」
学校が長期の休みに入り帰省する最中。
「こんな手紙を!」
運悪く、手紙を受け取ったのがお父様だった。
「こんな汚らわしい文章を」
「変態ではないか」
今回はどんな文章が書かれていたのか想像したくない。
どうせ気色悪い私への思いを綴ったのだろが、もはや触れるのも嫌だわ。
「最近はフォーカス家の馬車が近くを通っていて」
「この手紙を宰相閣下に」
「え?」
何故手紙を宰相閣下に渡す必要があるの?
「昨日、フォーカス家の事を相談した」
「お父様!」
「私達だけで解決するよりも第三者に入ってもらう方が安全だ」
「だとしてもですね…」
宰相閣下にこんなことを!
「キャサリン、フォーカス家の事は宰相様も責任を感じていますの…まぁ」
「婚約の仲介に入ったことを悔やんでおられてな」
婚約する際の立会人になってくださったからだろう。
でも、宰相閣下が気にする必要はない。
「いいかキャサリン、既にお前だけの問題ではない」
「はい…」
「当初は、お前の気持ちを優先した。しかしここまで気概が出ているならもう、お前一人だけで済む問題ではない」
ここまで話が大事になるまでに来ているとは。
これ以上被害が大きくなればどうなるか。
「今やお前は王家と婚約を結んでいるのだ」
「はい」
「立場を自覚し、慎重に動かなくてはならん」
これまでとはわけが違う。
「…というのは建前に過ぎん」
「は?」
「ウェルズ夫人が相当なお怒りでな」
宰相閣下の奥様。
ウェルズ夫人。
社交界でもかなりの影響力があり、夫人会を牛耳る程の方。
「社交界でお前を侮辱する噂にも」
「不正を憎む方故に、我慢できないのでしょうね」
政治には直接口に出せないけど、社交界に口出しはできる。
お茶会を利用して不正を暴いたりと、夫婦二人三脚で不正を正されている。
「フォーカス夫人は社交界の風紀を乱しているからな」
「これ以上社交界の風紀を乱されるのは我慢ならないのでしょうけど」
ああ、何でこんなことに。
フォーカス家は馬鹿なのかしら?
既に困窮しているのに社交界で問題を起こし夫人会にも目をつけられたらどうなるか解らないのか。
第一、こんな脅迫文を送って私が従うとでも思ったのかしら。
だけど彼らの暴走はこれだけにとどまらなかった。
「フィルベルト様、本日も意味不明な手紙が届いておりますが」
「またか」
まさか似たような手紙が送られていたとは知らなかった。
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