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第二章

38愛しの君~フィルベルトside⑤

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ただ耐え忍ぶだけの彼女を見て私は何もできなかった。
なんとかしたい、でもそんなことを彼女が望むはずがないのだから。


俺は知っていた。
誰よりも理性的で気丈な彼女は他人の手を借りることが嫌いだ。


優秀で当たり前。
自分の努力、功績は侯爵令嬢に奪われても耐える彼女を権力で手助けしても意味がない。


キャサリン・クレインは弱い令嬢じゃない。
己の力で未来を切り開ける人だ。



ただネックなのは。


オレリア・ジュレイドだ。
もしキャサリン嬢が、あれと離れる決意をしたのなら俺は容赦なく叩き潰す。


女性に手を出すのは本意ではない。
だけど、あの女の所為で傷ついた者は多い。

何より他人の手柄を自分の物にする卑怯さと図々しさ。
にも拘らず自分んは素晴らしいと思っている典型的な馬鹿を未来の王妃に相応しいわけがない。


王太子殿下の婚約者でありながら他の男を傍に置き、しかも自分の親友の幼馴染との仲を見せつけている。



俺はあの女が…


オレリア・ジュレイドが不快でたまらない。


嫌悪感を抱いていると言っても過言でもない。


そんな最中、ついにあの二人が問題を起こした。
そして愛しのキャサリン嬢にも愛想をつかされたのだ。

馬鹿な二人はそんなことも気づかずにキャサリン嬢を罵倒し病院送りにした。


もう黙っていられない。



「あの女、これ以上の狼藉は許さん」


「随分と物騒だなフィル」


背後から声が聞こえ振り返るとリシウスがいた。


「何だ?」

「気配に敏感なお前が気づかないとは」


一生の不覚だ。
まさかリシウスの気配に気づかないとは。



「それでどうするんだ」

「どうもこうもない。未だに彼女に接触しようとしているあの女を」

「まどろっこしいな。弁護士と、ジュレイド前侯爵夫人に手紙を出せばいいだろう。後は社会的に叩き潰すか」


かなり冷たいな。
俺が言えたことではないが、元婚約者に対して随分は態度だ。


「言っておくが私は、婚約は了承しても結婚する気はなかった」

「おい、それは…」

「そもそも王太子妃の器じゃない。それでも私は我慢した…歩み寄ろうとしたのにあの女は散々あの男を傍に置き、私を馬鹿にした。好きでもないいけ好かない女であろうと我慢した」

「ああ」

「耐えきれず精神の修業をして耐えた」


そういえば一時神殿で修業をしていたな。
心を殺すべく聖職者の元で。


そんなに嫌だったのか。


「エレーナへの思いを断ち切ろうとしたんだ」

「リシウス…」


ある意味リシウスも被害者だ。


「お前だけは幸せになってくれ」

「だが…」


「私は王太子だ。国の利益を最優先に考え、相応しい妃を娶る。エレーナを鳥籠に入れたくない」


自由放蕩なエリーナ嬢を王室の椅子に座らせることは自由を奪う行為だ。
解っているがやるせなかった。


ならば俺は…


リシウスが笑えるように動く。
そして俺自身も幸せになれる道を見つけるために。


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