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第二章
37愛しの君~フィルベルトside④
しおりを挟む己の名前を名乗ることっもできず、ベッドの上で過ごす日々が続く中。
館長からは花束が届いた。
しかしその花束を用意してくれたのは彼女だった。
薔薇や百合などいう豪華な花束ではないが、労りを感じる花だった。
言葉だけのお見舞いよりもずっと嬉しくて、その花を愛でるのが好きだった。
「フィル、本当にその方が好きなのね」
「いえ…そんなことは」
母上のうきうきした表情に冷や汗が流れた。
浮ついた話が一つもない俺に対して心配をさせてしまった事は申し訳なく思うが、ここでからかわれるのは困る。
それにもし俺が彼女を思ったとしてもどうこうなるわけじゃない。
何故なら俺は知っていたんだ。
「母上、私は婚約者のいる令嬢に思いを寄せる気はありません」
「えっ…」
「彼女には婚約者がいます」
小耳に挟んでいた。
彼女には困った婚約者がいることを。
「フィル、ごめんなさい。私ったら」
「いいえ、いいんです」
母上は知らなかったのだろう。
「でもまだ正式なものではないのでしょう?だったら」
「だとしても、私は横恋慕する気はありません」
社交界では真実の愛や駆け落ちに憧れる者もいる。
だけどそれはあくまで小説だからだ。
現実にそんな真似をしたら糾弾され、世間の笑いものになる。
自分で言うのもなんだが、俺が無理に婚約を強いれば嫉妬されるのは彼女だ。
世間でいう玉の輿になるが、彼女はそんなことを望まない。
「俺は忍ぶ恋のままでいいんです」
この思いは時間と共に消えるだろう。
もう図書館に行くのは止めようと思っていた。
なのに合わないでいると思いが強くなる一方だった。
忘れたいという思いと忘れたくない思いに苦しむ中。
「ロイド、勉強を疎かにしては!」
「いい加減にしてくれ!君はどうしてこうもうっとうしいんだ。貴族令嬢として学問に夢中になるなんてどうかしている。少しはオレリアを見習ったらどうだ」
「学ぶことを疎かにしてはなりません…私達は」
「煩い!身の程を弁えろ!」
「きゃあ!」
日に日に笑顔が消え、唇を噛み締め顔をうつ向かせるキャサリンを見るのは苦しかった。
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周りも同情的な視線を送っていた。
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「ロイドは侯爵令嬢にお熱だしな。先日もキャサリン嬢を町において来たらしいぞ」
「うわぁ…最低だな」
聞こえてくる噂は真実で聞いていられないものばかりだった。
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