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第二章
35愛しの君~フィルベルトside②
しおりを挟む「ごきげんよう」
高すぎない耳心地の良い声だった。
社交界ではできるだけ自分の声を美しく見せるために無理に高い声を出す令嬢がいる。
正直言って耳障りで仕方ない。
耳がいい事もあってか、うんざりしていたが、彼女の声は心地よかった。
他人に不快感を与えない声のトーンを理解している。
同い年でここまで訓練されているなんてことはまずないのに。
「キャサリン様。声の扱い方も取得されたのですか」
「はい…まぁ事情が」
「また侯爵令嬢ですか」
視線を泳がせる当たり演技はあまり上手ではないようだ。
しかし侯爵令嬢と言えば思い当たる令嬢は一人しかいなかった。
「私の声は高圧的のようで…その、練習をしたのですが…やはり」
「何を言うんだ。そんなことはない」
「ありがとうございます」
お世辞と思われたかもしれないが、ここで俺が何か言っても意味がない。
「それにしても随分と専門的な本を読んでいるのだな」
「そうですか?」
「キャサリン様は既に帝王学を読破されております。経営学も一般の家庭教師では教えられないのですよ」
「館長言い過ぎです。ここ最近物価高で領民の生活が危ぶまれているのです…なんとか税を安くする方法はないかと思っただけです」
高位貴族ならまだしも、高等教育を受けていない令嬢が?
王族でも高等教育を受けられるのは王位継承権のある者ぐらいだ。
なのに――
「先日の震災で不作が続いています。物価高での所為で生活苦になり栄養失調の民が続出していて…」
「伯爵閣下はできるだけ援助をしていますが、付け焼刃ですからね」
「はい、一時の援助では意味がないと母も申していました。お茶会でもそのような話をしたのですが…追い出されて」
「ジュレイド侯爵夫人はこの内容な無頓着ですから」
あの夫人か。
どうせ茶の味が不味くなるとか言ったんだろう。
「私も友人に話したら、その…お茶会の出入り禁止になりまして」
ぎゅっとスカートを握りしめる彼女に私はいたたまれなくなった。
暇な時間を無駄に使う令嬢は気づきもしない。
普段から口にしているお茶にお菓子は誰が作ったと思っているんだ。
「このままでは国は赤字でどうなるか…いえ、申し訳ありません。愚痴のようなことを」
「いや、もっと聞かせてくれないか」
こんな話ができるのは彼女だけだ。
もっと聞きたい。
話したい。
そう思いながらも時間はあっという間に過ぎた後。
「キャシー」
「もう閉館時間だぞ」
二人の男女が現れた。
俺の顔を見て驚いたような表情をするも身分を知られたくないために俺はアイコンタクトを取って内密にお願いした。
また彼女に会いたい。
そう願った。
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