伯爵令嬢の受難~当馬も悪役令嬢の友人も辞めて好きに生きることにします!

ユウ

文字の大きさ
上 下
59 / 136
第二章

26恋の微熱

しおりを挟む




人目がある。
恥ずかしいしこれ以上はダメだと思っているのに。


「待って…」

「本当は気長に待つつもりだった。だけどやめた」

「何を…」

何を言っているの。
私の両腕を掴み、荷物は地面に落ちてしまった。

そっと耳元で囁かれる。

「君の中にある過去の男を消したい」

「男っと言われても」

「愛情がなくても嫌だ。君の中であの男の記憶を全部塗りつぶしてやりたい。思い出してほしくない」

どんどんと距離が近くて、鋭い瞳が私を捕らえる。

「いや…見ないでください。そんな…」


恋愛初心者でもわかる。
そんな鋭い目で見られたら私は。

「止めて」

「嫌だ。俺をちゃんと見て」

今彼を見たらどうにかなりそう。

「君を愛しているんだ」

「止めて…言わないで」

「君が好きで仕方ない。好きで好きで仕方ないんだ」

逃げようにも壁に背が当たり逃げられない。
周りは恋人が多く私のやり取りに気づく人はいない。

「周りは恋人だけだ。ここは愛を誓いあう場所…カップルロードだ」

「そっ…そんな場所が!」

「だからここで俺が君にキスをするのは自然な事」

「なっ!」

顔を上げた瞬間、私は言葉を失った。
私の言葉をふさぐようにキスをされ、身動きが取れない。



熱い…

互いの行動が聞こえてしまう。


違う…

彼の鼓動の方が早かった。


ドクン、ドクンと聞こえてくる。


「キャサリン…」


私の手を握る手が震えている。
手慣れていると思いながらも私の手を握る手がわずかに震え、キスは優しものだった。


強引さはない。

「すまないキャサリン…君を傷つけて」

「私は…」

「でも、嫌だ。君があの男に傷つけられた記憶があるのが。愛してなくてもあの男が君の中に残っているなら全部消したい」

「待って…」

「ごめん」


今度は唇ではなく頬にキスをされる。
唇にされるよりも恥ずかしいのに、嫌悪感はなくて。


「嫌がらないんだな」

「うっ…」

「嬉しい…すごく」

初夏の日差しの所為なのか。
避暑地での空気に浮かされているのか。

私は頭の中がクラクラしていた。


まるで恋の病に浮かされてしまったかのように、私はそのまま受け入れるしかできなかった。


恋の微熱に私は――。


愛されるという意味を本当の意味で知ってしまった。



決して男性に抱かれないと思っていた強い思いに囚われてしまった。


しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

余命わずかな私は家族にとって邪魔なので死を選びますが、どうか気にしないでくださいね?

日々埋没。
恋愛
 昔から病弱だった侯爵令嬢のカミラは、そのせいで婚約者からは婚約破棄をされ、世継ぎどころか貴族の長女として何の義務も果たせない自分は役立たずだと思い悩んでいた。  しかし寝たきり生活を送るカミラが出来ることといえば、家の恥である彼女を疎んでいるであろう家族のために自らの死を願うことだった。  そんなある日願いが通じたのか、突然の熱病で静かに息を引き取ったカミラ。  彼女の意識が途切れる最後の瞬間、これで残された家族は皆喜んでくれるだろう……と思いきや、ある男性のおかげでカミラに新たな人生が始まり――!?

私から婚約者を奪う為に妹が付いた嘘…これにより、私の人生は大きく変わる事になりました。

coco
恋愛
私から婚約者を奪う為、妹が付いた嘘。 これにより、後の私の人生は大きく変わる事になりました─。

幼なじみの親が離婚したことや元婚約者がこぞって勘違いしていようとも、私にはそんなことより譲れないものが1つだけあったりします

珠宮さくら
恋愛
最近、色々とあったシュリティ・バッタチャルジーは何事もなかったように話しかけてくる幼なじみとその兄に面倒をかけられながら、一番手にしたかったもののために奮闘し続けた。 シュリティがほしかったものを幼なじみがもっていて、ずっと羨ましくて仕方がなかったことに気づいている者はわずかしかいなかった。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

処理中です...