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第二章
20騒々しい声
しおりを挟むここまで真剣な思いをぶつけられたのは初めてだ。
ロイドと比べるわけではないが、彼に労りの言葉をかけられたことはあっただろうか?
婚約者だから甘えてくれていると思った前世の私、馬鹿だろ。
親しき仲にも礼儀ありと言う言葉を知らなかったのか、婚約者だから何をしても許されるわけがない。
「キャサリン嬢、これだけは確認させてほしい」
「はい」
「ロイド・フォーカスに未練は」
「一ミリたりともありません。家を守る為に致し方なかったので」
うん、これだけは断言できる。
「こう申し上げて良いのか解りませんが」
「言ってくれ」
「彼は私との婚約を心底嫌がっていたのではないでしょうか」
だからあの時も生徒会室でも私を罵倒したんじゃないだろうか。
少しの情もなく幼馴染としての思いやりもなかった。
「普通婚約者が入院したのなら社交辞令でも手紙の一通ぐらいくれてもいいかと」
「ないのか」
「はい」
それどころか婚約して数年。
誕生日に花束一つもなかったわ。
薔薇の花一輪でも良かった。
「余程嫌だったのでしょうね」
幼馴染としても嫌われ、婚約者としては嫌悪の対象って酷くないか?
乙女ゲーム制作会社に苦情を言ってやりたい気分だったけど、もう終わったことだ。
「そうか…なら安心だ」
「はい?」
安心って何よ。
何所をどうしたら安心と思うのか。
「実はあの男の事で…」
「え?」
何をいいかけたフィルベルト様だったが。
「キャシー様!庭で白い蛇を捕まえました」
「わぁ!」
「素手で掴むのはどうかと思うぞ」
草むらからにゅっと現れたキャンベルさんに私はドン引きした。
その隣では虫取り少年の恰好をした殿下に黒い防護服を着たエレーナ様。
なんともミスマッチだな。
「三人とも何を…」
「私と殿下は虫取りです。エレーナ様は蜂を」
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「この地は私にとって天国です。様々な種類の蜂を発見しました。毒鉢がいないのは残念ですけど」
いや、前々残念じゃないわ。
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「キャシー様、私をセッシーと呼んでください!」
「大きな声を出すんじゃありません」
子供のような事をいう子だわ。
でも私が頷かなかったらまた騒ぐだろうから従わざるを得なかった。
「きゃああ!やった!」
「どっちにしても騒ぐのね」
でも私の考えが甘かった。
しかし私の苦悩はこれで終わる事はない。
「じゃあ私も名前で呼んでもらおうか」
「はい?」
「じゃあ俺も」
殿下とフィルベルト様まで悪乗りしてしまった結果、ここにいる全員が私を愛称で呼ぶようになってしまった。
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