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第二章
19ピンチ
しおりを挟む気の迷いならまだ良かった。
でもフィルベルト様は真剣だった。
真剣故に私は返答に困ったのだ。
相手を傷つけたくないからというわけじゃない。
勿論きずつけたくないという気持ちもある。
「私が恋愛をする気も、殿方を愛せないと申し上げたらどうします」
「ならば、見て貰えるように努力する」
「はは…」
言うと思った。
女好きな男なら他に手段があるけど、王弟殿下は情に厚く、一途な方だ。
なんせ未だに妾一人作らない徹底ぶりだ。
周りからは第二夫人を迎えるように厳しく言われているだろうに。
それだけ恋愛には一途な人だ。
まぁ王族としてはちょっと問題ありなのだけど。
「無理強いはしないと言ったけど、まだチャンスがあるなら考えて欲しい」
「お立場を…」
「君は伯爵令嬢だ。問題ない。むしろ高位貴族だと派閥争いの火種になる」
確かに侯爵令嬢以上だと派閥争いに影響が起きるのは否めない。
その点我が家は中位貴族で、並外れた財力はない。
あるとすれば大量の本と食料。
でも、有り余っているわけではないので財産とは言い難い。
後は果物農園ぐらいか。
それもたいしたものではない。
総合的に考えると政治にまったく役に立たないのだ。
「我が家は財産に関しては十分で、俺も王位を継ぐ気はない」
「はい」
聞く必要はない。
普段のやり取りを見て十分に解るわ。
もし王位を狙っているなら殿下とあんなにも親し気に話をすることもない。
お二人は心から信頼し合っておられるのだから。
「少しだけでも前向きに考えて欲しい。もし君が不快ではないならとりあえず形だけでもいい」
「そんなのできません…それでは利用するみたいではありませんか!」
私は思わずテーブルを叩き立ち上がってしまった。
「申し訳ありません。ご無礼を…」
「いや、君は本当に律儀と言うか、真面目だな」
形だけの婚約はどれだけ空しいか解っている。
別に恋愛結婚に重きを置いているわけじゃないけど、婚約して結婚する覚悟もないのに形だけなんて。
「婚約も、結婚も個人の問題ではありません」
「ああ」
「この度、私の婚約解消でどれだけの方が迷惑したか」
婚約一つで家だけでなく関わった人に多大なる迷惑をかけるのだから。
万一にでもここでフィルベルト様の申し入れを受けてしまったらどれだけの人が動くか。
ロイドの時でも大変だったのに相手は王族なのだから。
簡単にはいと首を縦に振るわけにはいかなかった。
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