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第一章
閑話1悲しみの世界で①
しおりを挟む王立学園で騒動が起きた後に数珠つなぎに不幸が続いた時間軸。
ようやく例の噂も落ち着きを取り戻した頃に、訃報が報じられたのだった。
「これはどういうことだ!」
執務室で手紙を握りしめ絶望した表情をする青年は何度も手紙を読み返したのだ。
キャサリン・クレインが死去した報せだった。
学園内の断罪事件に、侯爵令嬢の失踪事件と駆け落ちに続き、学校内で感染病のように婚約破棄発表がブームとなり。
その発端は婚約者の心を繋ぎ止められなかったキャサリンの責任だと周りは責めた。
全ての始まりは王太子殿下が平民の少女に好意を持った事だったが、後から知ったが二人の間にそんな事実はない。
二人きりで会う事はなく常に側近の者が傍にいたし、学園に不慣れな平民の少女が貴族が通う学園で手を出されては大変だという配慮だった。
だがその配慮の仕方が間違いだった。
婚約者のいる男子生徒としたくなり嫉妬を抱きながらも婚約者達は当初こそ慕えたのだ。
婚約者を信じていたから。
しかしそこで平民の少女、セルシア・キャンベルを公の場で糾弾した女子生徒がいた。
それが侯爵令嬢のオレリア・ジュレイドだった。
正義感の強さから婚約者のいる男子生徒と一緒にいるのは好ましくないと厳しく言い放ち周りはセルシアを悪女に思ったが、当人同士は全くの誤解だと思った。
セルシアは親しい友人程度にしか思っていない。
婚約者のいる男子生徒も王命によりセルシアを手助けして欲しいと言われていた。
光の魔力の保持者はそれだけに接するのに注意が必要だった。
なのに周りが勝手に騒いで大袈裟にして偽りを真実に、真実を偽りにしてしまった。
その張本人がオレリアとロイドだった。
当初からロイドはオレリアに好意を抱き騎士気取りだったのだ。
まがりなりにも婚約者のいる男性に解りやすい好意を見せ、王太子であるリシウスが良い顔をするはずもないが。
既に二人の間に距離が出来過ぎていた。
そんな中セルシアを吊るし上げるように公の場で注意して悪者にした事で見限ったのだ。
王太子妃として相応しくない。
後の国母には相応しくない。
何より偏った考え方をするオレリアをこれ以上自分の婚約者に出来ないと思い、遠回しに婚約解消を願い出たのだが敵わないので婚約破棄を言い渡したのだ。
もう既に様々な噂が飛び通っていた。
リシウスが婚約破棄を言い渡さなくても似たような状況だったのだ。
公の場で婚約破棄をして、自分が愚かな王太子と呼ばれても構わない。
だがその選択が間違いだったと後悔したのだ。
「クレイン嬢が…なんてことを」
手紙を握りしめながらリシウスは後悔の念に囚われた。
あの茶番劇の後に社交界の風紀は以前よりも乱れに乱れ、婚約破棄ブームに真実の愛を叫ぶ若者が増えてしまって、責任の一端を担い謹慎を命じられていた。
クレイン家がどんな状況かも知るすべもなかった。
知った後はキャサリンが過労で倒れ重い病気に侵された後だったのだった。
直接謝罪の手紙も送る事もできない。
一国の王子が伯爵令嬢に直接手紙を送った噂が流れればさらに糾弾されるのは確実だった。
だからこそ側近に手を回し、王都から離れた領地で療養させるように命じ、尚且つ医師を派遣したのだ。
その間他の貴族が接触できないように警護をつけ、ジュレイド侯爵家に関してもクレイン家に近づかないように裏で手を回したのだ。
全てが無駄だったのかと思わざる得なかった。
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