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番外編
元伯爵のその後③
しおりを挟む馬車が無くては移動ができない。
しかも裏門の方にも火が回っているので早くここを離れなくては巻き込まれる。
「いたぞ!」
「爆弾を投げやがって!」
「悪の伯爵を殺せ!」
領民が二人に気づき、こちらに向かって来る。
「逃げるぞ!」
「逃げるって、どうやって!」
自分で歩くなんて事を考えた事がないのでどうするのかと聞くも。
「馬鹿か、馬車がないなら走るしかないだろ」
「そんな、服が汚れるではありませんか」
「このまま捕まれば殺されるぞ。死にたいなら好きにしろ」
「なんて事を!」
ギャーギャーと言い合いをする中、鎌鎖が飛んで来る。
「ひぃ!」
既に言い合いをしている余裕はなく、二人は死に物狂いで邸を後にした。
そして現在。
今まで領地内を移動する時は馬車に乗り御者任せだった事もあり完全に遭難してしまった。
領地は広く、森の中に息を潜めながら追ってから逃げる。
「くっそ、なんてしつこいんだ」
「松明が…まだ追って来るわ!」
茂みに隠れて地を這うような姿になり、身を隠す。
「何処かに隠れる場所を…」
「ちょうどいい場所があるわ」
視線の先にはちょうど良いタイミングに洞窟を見つけた。
「食べ物もあるわね」
「ああ、この際我慢するか」
脱走してから食事を一切食べていなかった。
だが二人は気づいていなかった。
この時期に洞窟に果物が置かれてる理由は何故か。
洞窟の割には環境が整えられており、洞窟の中は温かく。
まるで用意されたように草の上に果物や魚に、小さな岩で囲まれた場所には飲める水が湧いている。
「まったくこんな目に合うんなんて」
「疫病神だ。あの女は」
「そうよ、私達がこんな目に合うなんておかしいわ」
文句をブツブツ言いながら置かれていた果物にがっつく。
プライドも捨て空腹を満たす事を考えたのだが。
「グゥ…」
「ちょっと貴方、煩いですわよ」
果物を食べながら腹の虫の音が聞こえ煩いと思ったが。
「グゥ」
「貴方、いい加減にしてくださる?これだけ食べてもお腹が空いてますの?」
仕切り無しになり続ける空腹を告げる音にイライラする。
「何を言っているんだ?」
「さっきから貴方のお腹の音が喧しいのですわ。グゥグゥと」
いい加減に腹の音を止めろと言いながら振り返ると。
「へ?」
大きな影が重なった。
「グウワァァァァ!」
さっきから鳴っていたのは空腹を告げる音ではなく、この巣に住み着く魔熊の泣き声だった。
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