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第二章魔導士の条件
15不憫
しおりを挟む「さぁ、メアリ。存分に食すと良い」
目が覚めたメアリは至れり尽くせりの環境に戸惑った。
「あっ…あのシンディ先輩」
「何だ?遠慮はいらん」
目の前に置かれるのは見た事がないパンの数々。
勿論メアリの大好物のコッペパンも置かれているのだ。
「君はコッペパンが大好きと聞いたんだが」
「はい世界で一番好きです」
「そうかそうか…ジャムも美味しいぞ」
「わぁ、キーウイのジャム!」
エメラルドグリーンに輝くキーウイのジャムを見ると領地の海を思い出す。
「すごく綺麗」
「メアリの故郷は北部で海が美しいんだったな」
「はい、不便な土地ではありますが…海がすごく美しくて」
「その領地に隣接する領地はカートン領地とモリガン領地と近いと聞く」
「はい」
お茶をしながらシンディアは以前から気になった事を問うた。
「聖騎士と宮廷魔術師とは友だと聞いているが」
「はい、幼馴染です。小さい頃からのお友達…なんですけど」
顔を俯かせるメアリは学園に来てから真面に話せなくなったことを悩んでいた。
立て続けに事件が起きてしまっていたので話すきっかけがなくなっていたのだが、忘れた事はない。
「転科になって忙しくて」
「そうか、二人の事が好きか」
「はい」
即答するメアリにシンディアは内心で困った。
(どうしたものか)
生徒会の権限と王族の二人の許可の元、少しばかり調べさせてもらったのだが。
(完全に利用され搾取されていると言うのに…)
メアリは幼少期から治癒師として優秀ではあるが攻撃魔法を使えない事は貴族として出来損ないだと植え付けられていた。
それを庇う優しい婚約者を演じているかのように見えるがすべて仕組まれていた。
特にアークの実家は困窮しておりメアリが領地を救うべく奔走し、しかも病気の民を救っていた。
だがその功績は全てアークとなっている。
しかもメアリは感謝などさることなく、肉体労働まで強いていた事を知る。
モリガン領地でも薬草などもメアリが無償で与えていたが、実はその薬草で利益を得ていた。
その調合方法もちゃっかり自分の物にしていたのだ。
メアリ自身は三人で協力したのだが、言葉巧みに利用されている。
(こんな馬鹿な話があるか…洗脳に近いじゃないか!)
シンディアは治癒魔法がどれだけ術者に負担がかかるか知っている。
魔力は無限ではない等誰でも解る事なのに、あの二人は利用できるだけ利用している。
そして今回の手柄も下手をすればメアリは魔力の消費で命すら失いっけていたのだから。
「私、ずっと治癒魔法しかできなくて。二人が私の治癒で笑顔になってくれるなら…もっと頑張れば喜んでくれると思ったんです」
「そうか…」
聞けば聞く程不憫だった。
幼い頃から慕い続ける二人を今でも信じているメアリが報われないと思うとやりきれない。
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