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第二章魔導士の条件
2生徒会長
しおりを挟む昼食時、それは戦争だった。
全量制度であるため一般食堂は常に満員だった。
購買部も同然に。
「今日も狩りに行くわ」
お昼の時間を告げるベルが勝負だった。
ここでパンを獲得しないとメアリに明日はなかった。
「いざ出陣…」
「メアリ、ここにいたのか」
「会長」
飛び込みをしようとした時だった。
ソーマに声をかけられてしまい、残念な表情をする。
「申し訳ないが生徒会の仕事を手伝ってくれないか」
「はい…」
空腹であるが生徒会の仕事と言われれば何も言えない。
(お腹すいた)
腹部を押さえながらしょぼくれる。
今日の日替わりパンは白いコッペパンにキーウィのジャムと生クリームを挟んだ新作だった。
(食べたかった…)
残念そうに生徒会室に入ると。
「コッペパン…」
「ああ、これな?間違ってシンディーの奴が買って来たんだ。食べきれなくって困ってて…って、どうしたんだ」
「白いコッペパン」
生徒会室に置かれている白いコッペパンは限定品だった。
虹色のジャムが挟まりパンの上には雪のように粉がまぶされている。
「何だ?いるか?」
「よっ…よろしいのでしょうか」
「食べきれないからな」
「あっ、ありがとうございます!」
食べそびれたコッペパンを見つめ涙目だったメアリにソーマは心を和ませた。
「ゆっくり食べている時間は…は?」
「ごちそう様でした」
山のように積んでいたコッペパンは一瞬で無くなっていた。
「何だ?何処に入れたんだ」
「ここです」
お腹をさすりながら満足そうにする。
「君の胃袋は収納アイテムか」
「はい?」
お腹が膨れて満足したメアリは早速仕事をこなしていた。
「メアリ、そんな重い物を持たなくても良い。君は…」
「でも、領地では荷物は自分で持ってましたし」
手に抱えきれない程の本を抱えながら運ぶ。
通常では貴族令嬢はこんなことはしないのだが、メアリは昔から力仕事をするのが当たり前だった。
「領地では資料の荷物係は私でしたし」
「荷物係?」
メアリの言葉に違和感を感じる。
「黒魔術書にくらべれば軽いですね」
「えっ…」
「それに書物を隣の領地にはこぶこともあったのでへっちゃらです」
瞬時に本棚の整理や重い書類を移動させてしまう。
本当はソーマが魔法を使って動かし、書類の整理を手伝ってもらうつもりだったのだが。
「そうだ、掃除もしますね」
「えっ?掃除って…」
ぱぱっと掃除を済ませ、部屋全体をピカピカにしてしまう。
慣れた手つきで昨日今日にできる物ではない。
(何故メアリは掃除がこんなに早いんだ?いや…あの手は)
貴族令嬢には似つかわしくない程赤切れだらけの手だった。
他の生徒はもう少しお洒落をしているがメアリは化粧もしていなかった。
(彼女はあのアーク・カートンとは幼馴染だったな…それにしても)
噂では婚約者だったと聞かされている。
生徒の名簿は一通り目を通しているが、婚約者ならばアクセサリーの一つや髪飾りぐらいは送っているのにと思う一方で、隣にいる少女には自分の瞳の色と同じネックレスと髪飾りをつけていた。
そこに疑いの目を向けたソーマは。
(やはりもっと調べてみるか)
学園内で流れる噂。
ソーマは噂を鵜呑みにしていないが、アークに対して疑念を持っていたのでもっと詳しく調べようと思ったのだった。
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