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第一章婚約破棄と白のグリモワール
22音楽教師
しおりを挟む特別科では専門分野を主に学ぶ。
しかし学園の代表ともいえ生徒が揃っているので音楽も重要視される。
楽器の嗜みもエリルデード魔法学園の生徒として当然と言う考えがあるが、一般科の生徒で音楽を嗜む生徒は多くないのだが。
「では、メアリ・バルセルクさん」
「はい」
メアリは戦場に出ることが多く、母親が歌姫だった事から。
「あら?楽器は?」
「持ってません」
「は?」
楽器がないという言葉に生徒も首をかしげる。
「楽器は私です」
「貴女?」
「では一曲」
気持ちを落ち着かせならがメアリは戦場に同行する音楽隊と一緒に歌った歌を歌った。
伴奏もマイクもないがメアリに不要だった。
アカペラであったが響きある声量に深みのある音は何処までも低く澄み切っていた。
一曲を歌い終えたメアリはお辞儀をすると。
「メアリ・バルセルクさん」
「はっ…はい」
音楽教師がいきなり近づいて来る。
メアリは完璧に歌えたと思ったが楽器演奏の場で歌ったのが問題だったかと思ったが。
「今すぐ宮廷音楽団にお入りなさい!」
「は?」
「腹式呼吸、声の出し方、間の取り方にリズム感。すべてにおいて完璧ですわ」
「あっ…あの」
音楽教師・マダムローア。
宮廷師団所属の音楽団の指揮者であり若い頃は音楽団の歌姫として活躍していた。
歌で人を天国に導く事もあれば地獄に導く事もある。
好きな言葉は完璧。
「あっ…あの」
「ずっと探していたのですわ!貴女のような歌姫を。最近の若者は少し鍛えたら使い物にならないから困っていたのです」
メアリはあまりにも強い力で肩を掴まれ身動きが取れなかった。
「少しって…先生の地獄の特訓で何人地獄に行きかけたか」
「ある意味士官学校の訓練より厳しのよね」
「正規の騎士でも耐えられない地獄特訓。生きてその特訓を耐えたのは白騎士様か近衛騎士様ぐらい」
不穏な言葉が飛び通う。
彼女は音楽の為に武者修行をさせていたのだった。
「貴女の体つきは訓練された体のようですわね?トレーニングはどのような事を」
「えっと…」
マダムロアの勢いに押され気味のメアリは素直に聞かれたことを答える。
「毎朝山を飛び越えて、薪割りに行きます」
「ほぉ?薪割り…」
「時々馬を走らせて領地を一周したり」
「ほぉ?馬を」
素直に答えた内容がさらにマダムロゼの機嫌を良くさせた。
近頃の貴族令嬢は馬も満足に乗れず体力もなかったので、落胆していた。
「遠出して、時には薬草を取りに野宿を」
「野宿ですか」
「夜に星を見て過ごします」
貴族令嬢は野宿なんてしないし、騎士でもない限り無理だった。
上級冒険者の家でも狭いと言って耐え切れないこともあるのだが。
メアリのように普通に野宿できる貴族令嬢は稀だった。
生まれた時から戦場に身を置く女性騎士ならまだしも、メアリの年齢では珍しいのだが。
本人は知らなかった。
辺境地に住まう中、ピクニック感覚で野宿をしている事。
しかもピクニックは普通の騎士が受ける訓練なのだが、父親にはピクニックと偽り楽しみながら訓練をさせられている事にも気づいていない。
「パーフェクトですわ!」
なので、メアリにとって普通はまったく普通ではなかったのだ。
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