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第一章婚約破棄と白のグリモワール

17魔獣の暴走

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小さな子供が踏みつけられる瞬間メアリは飛び込み、子供を抱きしめる。


受け身を取りながらなんとかやり過ごした。

「ありがとうございます!」

「急いで高い体育館に避難してください」

「えっ…」


メアリは今にも襲い掛かって来る魔牛を睨みつける。

「大丈夫です。今はお子様を」

「はっ…はい」

安心させるように笑顔を浮かべながら懐からハンカチを取り出す。


「さぁ、勝負よ!」

「モォォォ!」


赤い布を取り出し一番体格の大きい魔牛の注意をこちらに向かせようとしたが。


後方から電撃が走る。


「馬鹿か!」

「え?黒のグリモワール?」


宙を舞う黒い魔術書と一緒に現れたのは先ほどメアリを助けてくれた少年だった。


「巨大な魔牛の前で死ぬか気か」

「メアリ!下がれ!」

ミカエルが拘束魔法で魔牛の動きを封じていた。

「お嬢様!お怪我は…」

「セイラ、牛さん達を大人しくさせるわよ」

「しかし、この状態は…」

既に興奮状態は最高潮になっている。
攻撃しても魔牛を興奮させるだけだが、万一殺してしまえば他の魔牛が暴れるだろう。


この数の魔牛を相手にすれば学園内がどうなるか。


「ミカエル、こうなっては仕方ない」

「待て、その力は強すぎる」

「そんな事を言ってられるか!」


被害を最小限にするために多少の犠牲は必要だと言うもミカエルは、止めようとした。


しかし、暴れる魔牛により結界は壊れる。


「まずい!」

「ユリウス!」

電撃で怯んだ魔牛達も暴れはじめた瞬間。


「お嬢様!」


メアリは暴れる魔牛の前に立ちはだかる。


「おい!何して…」


怒り狂う魔牛の角を掴み抑え込む。


最初こそは力でメアリを押そうとしたが、動きが止まる。


「待てユリウス。様子がおかしい」

「魔牛の角の色が変わって行く…どうなっているんだ」


魔牛にとって角の色で怒りを表す。
角が白であれば敵意はないと同じことだった。


「魔牛の怒りが…」

「待て、他の魔牛が大人しくなっていくぞ」


メアリは角から手を放し頭を撫でると魔牛の目の色が変わる。

「モー!」

「は?嘘だろ」

「ありえない」


魔牛達はそのまま頭を下げた。
メアリを囲み敬うように鳴き声を上げた。


「嘘だろ。凶悪な魔牛が自ら」

「ティマ―でも難しいのに」


この時、メアリは知らなかった。
辺境地で野生の魔牛を扱う事になれていたので怒った魔牛を大人しくさせる時は角を掴んで大人しくさせていたにすぎず、辺境地では普通の事だった。

しかし、魔牛とは通常人に懐かずいう事を聞かせるには服従の首輪をつけるか契約するかのどちらかだった。

まず魔物を攻撃せずに大人しくさせるのは不可能に近かったのだ。


「怖がらせてごめんね、怪我も治すから」


しかも魔牛に癒しの魔法を使い負傷した魔牛の怪我を治してしまった事で彼等は感謝をし、命とも言える角を前にして主の忠誠を誓った。


前代未聞の事であった。


そしてこの事件を見ていたひとりの男。


「エレガントだ」


エリルデード魔法学園の学園長のシュージ・ランブルだった。


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