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第一章婚約破棄と白のグリモワール

5涙に花を

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「君を探していた。白き魔導士」


優しく微笑む少年は花を差し出す。

「あっ…あの」

「綺麗な顔に涙は似合わない」

「は?」


生まれてこの方綺麗だなんて言われたことはない。
領民からは可愛いお嬢様、父にも可愛いとは言われたが、真顔で口説かれたのは始めただった。


「君のその力が必要だ」

「えっ…私の」


「ようやく見つけた」


強く手を握られ、前のめりに倒れこむ。


「わっ…」

「一緒に来てくれ!」

「え?ちょっと…」

「お嬢様!」



強引に手を引かれお姫様抱っこをされる。

「足を汚しているから少し我慢してくれるか」

「いや…そうじゃなくて」

「少し我慢してくれ」


メアリの返答を聞かず、足元に螺旋が描かれる。


「我れを導きし魔術書・グリモワール・扉を開け」

「なっ…」

そこに現れたのは四大魔術書だった。
初代国王と唯一対等と呼ばれた大白魔導士様が残した魔術書。

四冊のグリモワールは四大精霊の力が宿る。

中でも黄金のグリモワールと白のグリモワールは対となっていた。


太陽と月となるように。


「白きグリモワールよ答えよ」

「えっ…」


「触れてくれ」


メアリは無意識に白のグリモワールに触れると魔法陣がもう一つ浮かび、二つの魔法陣が一つになる。


「なっ…何!」

「そのまま…怖がらずに白のグリモワールを!」

「はっ…はい!」



ドクン…ドクン。


グリモワールが心音を鳴らした。
その音が心地よく懐かしさを感じる。



「王子…これは」

「白のグリモワールの封印が!」


「やはり正当な後継者だったか」


光が小さくなり、魔導書に新たな紋章が刻まれて行く。


その紋章は月の形を表していた。


「封印が解けるわ…五百越しの封印」

「太陽を守る月が」


強い光は止み、白いグリモワールはメアリの手元に来る。


「私の名前?」

白のグリモワールにメアリの名前が刻まれていた。


「ようやく見つけた…僕の月」

そっと膝をつき手の甲にキスをする。
まるで姫君に忠誠を誓う騎士のようだったが…。


「はい、そこまでですわよ」

「リーシャ、何をする」

拳骨が落ちる。

「うら若き乙女に了承も無しに無礼ですわよ」

「リーシャ!痛いじゃないか」

「白魔導士様…いいえ猊下に対して無礼極まりないですよ」


少年を睨みつけたのは学園に来る前に出会った二人の少女だった。


「リーシャ様にギーゼラ様?」


二人に視線を向けると二人は直ぐに膝を折る。


「お探しておりました。我らが白き大魔導師様。この日を心よりお待ち申し上げておりました」

「我ら猊下を守り貴女様の御心に寄り添わせていただきたく思います」


「はぁぁぁぁ!」


婚約者と親友を失った日、白のグリモワールの後継者となるのだった。

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