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第一章婚約破棄事件
14.伯爵夫人の出陣
しおりを挟むマグリット商会を出て、私は馬車の中で考えました。
男女の機微に疎い私でありますが、娘が傷つく様を見ている母の気持ちは痛い程解ります。
私は二児の母。
いいえ、三児と言っても過言ではありません。
恐れながらリリアン様は私の子として接して参りました。
葬儀の日に侯爵様よりメーイデン様の遺書が見つかり、万一の時はリリアン様の事を私に任せたいと書かれていたのです。
アスガルト伯爵家の力でリリアン様を守って欲しい。
いわば後見人の役目をお願いされたのですが、私は自信に爵位はありませんでした。
しかしながら家庭教師としてずっと見守って来たのです。
この身の及ぶ限りの事はしたいと思い手を尽くしてまいりました。
元よりリリアン様を慕っていチャイナさんは問題を起こした侍女に逆らってでも守ろうとしていたそうですが、身分と国籍の問題で傍を放されていたそうです。
しかしながら、彼女は目を盗んでは見守っていたのです。
現在は傍付きの侍女に戻され、近衛騎士の方に見初められた後に結婚後も侯爵家にお仕えしています。
嫁姑問題もなく、ご子息も若手の中でも優秀な騎士として育っています。
現在はリリアン様の専属の護衛騎士をする程に立派なお働きをしていると聞きます。
「すいませんが、寄り道をしていただきますか?」
「どちらに?」
「ええ、少しだけ行きたい場所があります」
出来る事は少ないですが、まずは行動あるのみ!
「調査です!」
「かしこまりました!」
久々に私の仕事魂に火が付きました。
「行先はチェルベロ子爵へ」
「はい!」
御者に急がさせ私は、現在登校拒否となっているチェルベロ子爵家に向かいました。
アポなしですが、お嬢様のお見舞いに来たと言えば追い返されることはないでしょう。
「まぁ、わざわざ」
「お嬢様が学園に来ることもできない程お心を痛めておられていると聞きまして。心中お察しいたします。あんなにも素敵なお嬢様がお部屋に籠っているとは…我が娘が同じようになったらと思うと」
「ありがとうございます。どうか娘に合ってやってください!」
意外とあっさり邸に入れて貰えました。
元より、チェルベロ子爵夫人はお人の好い方ですので、共感した素振りを見せれば簡単でした。
「私が心配しているのは今後の事です」
「今後?」
「はい、学園に来ない日々が続きますと復学にも影響が出ますし…周りはお嬢様を責めるでしょう。その上学園も辞めてしまえばどうなるか」
「それは…」
お嬢様をお部屋から出て来ていただく前に私がすべきことは、チェルベロ子爵家の在り方です。
「婚約破棄とは片方の過失によるもの。婚約の条件を見直し、できるだけお嬢様に傷が出ないようにするのです。お嬢様自身が元婚約者の事を愛しているなら別ですが…」
「いいえ、この婚姻は先方が無理矢理に…娘には好いた殿方がいまして」
「なんと!その方はお嬢様を?」
言葉に出さないが二人は相思相愛であることが解りました。
ただ身分的な理由もあって婚姻が難しかったのですが、ご両親はお嬢様の幸せを考えていたのですが相手が格上の身分故に断れなかったそうです。
「今でもその殿方は?」
「娘を心配して何度も手紙を下さってますが…」
「なるほど。私に良い考えが御座います。成功すればお嬢様の名誉を守れるかもしれません」
「ええ!本当ですか?」
ただしリスクが伴います。
何より相手方の覚悟が必要になって来ます。
「ですが、お嬢様をお守りする代わりに多くの者を失うでしょう。社交界でも責められます。そのお覚悟は?」
「私達夫婦は長年子を授かれませんでした。ようやくできた子なのです。私達の全てなのです。あの子が幸せになれるなら…私達は」
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