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第一章婚約破棄事件
13.副ギルド長のお話
しおりを挟む他所様の事に首を突っ込むのはどうかと思ったのですが。
子を持つ身としては捨て置けません。
「副ギルド長、どうしたらよいでしょう」
「そうねぇ?私は結婚前から働いていたし、夫も理解があったのよ?でも…一度婚約を破棄されているのよ」
「え?」
これは初耳です。
女子爵の地位を賜り旦那様は伯爵様でいらっしゃる副ギルド長が?
「婚約者が前時代的な考えで女はでしゃばるなって人でね?自分で言うのも何だけど。私は優秀だったからかしら?」
「大人げないのでは?」
「大人だから大人げないのよ。器の小さい男ほど、できもしなくせに自分は優秀だと思うのよ。私だって最初は努力したわ。彼のペースに合わしたけど…それでも今度は見下されて、どうしろって言うのよ」
聞けば私の境遇と同じで、浮気をされたそうです。
「だから私はその男が浮気している現場を流してやったわ。慰謝料もふんだくった挙句、下町で晒し物にしてあげたの」
「まぁ…」
「貴女はそこまでしなかったでしょ?新居だって最終的には譲ったのだし」
「大事な物は返してもらいましたし、母の形見のドレスだけは取り返しました」
「でもお色直しのドレスは奪われたじゃない」
確かに他にも花嫁衣装を奪われはしましたが、そこまで価値のないものですし。
お色直しのドレスはジャスパーの趣味で作ったのですが正直着るのは気が進まないデザインでした。
「結局結婚式の費用は返金してもらえなかったのでしょう?」
「ええ、その代わり土地をいただきました」
「あんなの使えないでしょう」
確かに荒れて使い物になりませんでしたが、長い目で見れば使えると考えているのです。
それに借金では踏み倒される可能性があったのですから。
「まぁ、私に婚約破棄を告げた男は、私が結婚した数年後没落したの」
「そうなんですか?」
「元より私の支度金目当てにする程借金を背負っていたらしいし、婚約破棄を告げた時点でドボン。今の旦那が商会を作った後に色々ねぇ?」
副ギルド長は女性としても魅力的だったのですね。
マルグリット商会の会長であり、商業ギルドのギルド長は資産家としても有名ですが。
未だ側妻一人も迎えず、女性遊びをしない方として有名です。
「旦那には浮気したら離婚って言ってあるもの」
「副ギルド長のなせる業ですね」
ギルド長にそんなことをが言えるなんて。
「何を言っているの?若手の商会で一番と言われるケネシーを骨抜きにしておいて。あの馬鹿、また花屋で花を爆買いしていたわよ。今度の記念日の為に」
「そういえばもうすぐ結婚記念日でしたね」
「何時までも新婚気分ね。でも気をつけなさいな」
笑っていらっしゃった副ギルド長が顔を顰められました。
「私もこの時期が厄介だったのよ」
「厄介?」
「結婚して仕事も順調で子供も出来て、幸せ絶頂の頃にトラブルは起きるのよ。昔の男とかね?」
この時、意味深な台詞を吐かれましたが、私はないだろうと思ったのです。
ジャスパーは真実の愛を見つけてアイリーンさんと結婚したと聞いています。
美しく、守ってあげたくなるような愛らしい彼女はお姑様にも気に入られていると聞かされたので私の事など忘れているはずです。
困窮しているとはいえ、多くの土地を持っていましたし。
上手く活用すれば事業をすることも収入を得ることもできるはずなのですから。
今さら会うことはない。
そう思っていたのですが。
「レティシア?」
私は知りませんでした。
マルグリット商会を出た後にあの男が偶然にも私を見ていたとは。
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